6月上旬、地元老人クラブで、
1時間半程、お話をする機会に恵まれた。
前回のブログで、その時の内容を1部再現したが、
その続きを記す。
講演の後半を『「人生100年時代・・」みたいな話題』と称し、
こう切り出した。
(前ブログの再掲)
『好きな言い方ではありませんが、
昔に比べ「職場から墓場までが長く」なりました。
墓場までの長い人生を、私も今生きているわけです。
叶うなら、これからまだまだ続く、
長い時間が充実したものであってほしい。
そう願うのは私だけではないはずです。
実は、伊達に移り住んでからランニングを始めました。
ランニング中に、登下校の子供らに出会います。
挨拶を交わし、すれ違ったり追い越したりの、
ほんのわずかな時間に、ちょっとしたふれ合いがあります。
その時に子ども達から、
充実した今を生きる大切な刺激を受けています。
3つほど紹介します。』
その3つのエピソードを語った後、私はこう結んだ。
『出会った子らのようでありたいと思いませんか。
どんなことも曖昧にせず、感動を真っ直ぐに表現し、
リスを見たあの子のように、透明感を持ち続けたいと、
私は思うのですが、いかがでしょうか。』
その続きを再現する。
* * * * *
実は、私たちの身近にいる同世代の中にも、
あの子らと同じように、
充実した生き方の手がかりを教えくれている方々がいます。
これも3つ、紹介します。
1つ目、場所は総合体育館内のトレーニング室。
そのロッカールームでの1コマです。
汗を拭きふき、着替えに時間がかかっていました。
すると、体を動かし終えた同世代の方が2人、戻ってきました。
聞くとはなしに、2人の会話が耳に入ってきました。
「今夜は、シルバーのアルバイトで、斎場の交通整理なんだ。」
「あれ、ちょっとした小遣い銭稼ぎになるよねぇ。」
「そうなんだよ。これからは寒いけど、
時々なら、いい小遣いが入るから・・。」
「まあ、元気だからできるんだよ。」
そう言いながらも、私より早く着替えが進んでいきます。
会話も続きました。
「元気はいいが、最近物忘れがひどくてさ。」
「そうそう、同じだよ。」
「家にいても、さっき置いた物の場所を、
すぐ忘れてしまうんだよ。
探し物、ばっかりさ。」
「まったくだよ。忘れる! 忘れる!」
「もう、どうしようもないわ。」
「本当だ。本当!」
2人は、そう言い合いながら、
さっさと着替えを済ませ、ロッカールームを出て行きました。
ところが、そのベンチにタオルが1枚残っていました。
私は、あわてて廊下に顔を出し、タオルをかざして、
「あのー、タオル、忘れてますよ。」
「ほら、また忘れた。」
私の声に振り返り、2人は顔を見合わせ、大笑いをしていました。
おおらかに老いを笑い飛ばす2人。
全然老け込んでなんかいません。
何故か肩の荷が軽くなりました。
同時に、あの日「すげーえ、すげー!」
と言っていた中学生(前回ブログ参照)の、あの明るさを思い出しました。
どこか似ているように思えてなりません。
2つ目は、これまたトレーニング室での出会いです。
ランニングマシンで走って、大汗をかきました。
他の機器を使うため、Tシャツを着替えにロッカールームへ戻った時です。
そこで、汗を拭いていると、
見慣れない同世代の方が、額に汗を浮かべて入ってきました。
私を見るなり、「定期券、持ってるの?」と、訊いてきました。
伊達に来てからは、こんな何の前ぶれもない問いかけに、
だいぶ慣れたので、私は即答しました。
「いや、回数券です。」
「そうか。」
しばらく、沈黙がありました。
ご存じかと思いますが、
トレーニング室の料金は1回300円、
回数券なら3000円で11回、
定期券は6000円で3ヶ月何回でも利用できます。
「それで、週どのくらい来るの。」
再び訊いてきました。
「そうですね、週1回か2回です。」
「じゃ、回数券がいいか。
俺さ、定期券買ったんだよ。
それでさ、なんか勿体ないから、毎日来てるんだ。
損しないようにって、
時々、午前と午後の2回来る日があるんだけれど、
もう、疲れちゃって。」
「それは、頑張り過ぎですよ。」
「そうか、体、壊しちゃうな。今度は、回数券にするわ。」
話しながら着替えを済ませ、
「じゃ、また」と彼はロッカールームを後にしました。
「エッ、勿体ないだって。1日2回も・・。誰か、止めてやらないと」
そう思いながら、その生真面目さが、
「エッ、ちがうよ、オジサンじゃないよ」
と、言い合っていた下校中の小学生(前回ブログ参照)と重なりました。
そして、もう1人、紹介します。
市役所から依頼があり、国勢調査の調査員を引き受けました。
担当は百数十軒の世帯でした。
調査依頼を始めて3日目でした。
あるお宅を訪ねた時、ご主人は丁度家庭菜園の手入れをしていました。
作業の手を止めて、調査書類を受け取り、
私からの一連の説明も真剣に聞いてくれました。
そして、世帯主名と同居者の人数を聞き取ったその直後でした。
「これ、いつからやってるんだ。」
「訪問ですか。3日前からですが・・。」
「3日も前からなのに、随分遅いじゃないか。
早くもって来いよ。」
ご主人の声は、やや尖っていた。
私は、その勢いと予期しなかった言葉に驚き、
「それはそれは、失礼しました」。
軽く頭をさげ、その場を立ち去りました。
当然、不快感が残りました。
でも、気持ちを切替えて、次の家へと・・。
そして、翌日の夕暮れ時でした。
同じ通りで、留守だったお宅に再度依頼へ行きました。
「早くもって来いよ」のお宅前を通りました。
たまたま玄関からあのご主人が出てきました。
すぐに、私を呼び止めました。
「まだ、配っているの?」
「はい、留守の所があるもんですから・・」。
できるだけ明るい声で応じながら、
またクレームかと身構えました。
「丁度よかった。俺さ、昨日変なことを言ってしまった。
沢山の家を回るんだから、何日もかかるのに、
いや、済まなかった。」
ご主人は、軽く頭をさげ、静かな表情で私に向かって続けました。
「あんたがいなくなってから、気づいてさ・・。今、会えてよかったよ」。
「いえ、いえ・・、そんな・・。」
ご主人の気持ちの変化が、手に取るように分かりました。
そして、リスの出現とその後の不安、困惑、
そして安堵する少年の思い(前回ブログ参照)と、
このご主人の心境に、共通性を感じました。
さて、「学ぶ」と言う言葉の語源は、
「真似る」だと聞いたことがあります。
今日、紹介した子ども達や同世代の方々から、
これからの長い人生の過ごし方を学びたいと思いました。
まずは、日々の何気ない時と場で、「見よう見まね」。
そっと、真似てみよう・・と。
ヒナゲシの季節も過ぎる
1時間半程、お話をする機会に恵まれた。
前回のブログで、その時の内容を1部再現したが、
その続きを記す。
講演の後半を『「人生100年時代・・」みたいな話題』と称し、
こう切り出した。
(前ブログの再掲)
『好きな言い方ではありませんが、
昔に比べ「職場から墓場までが長く」なりました。
墓場までの長い人生を、私も今生きているわけです。
叶うなら、これからまだまだ続く、
長い時間が充実したものであってほしい。
そう願うのは私だけではないはずです。
実は、伊達に移り住んでからランニングを始めました。
ランニング中に、登下校の子供らに出会います。
挨拶を交わし、すれ違ったり追い越したりの、
ほんのわずかな時間に、ちょっとしたふれ合いがあります。
その時に子ども達から、
充実した今を生きる大切な刺激を受けています。
3つほど紹介します。』
その3つのエピソードを語った後、私はこう結んだ。
『出会った子らのようでありたいと思いませんか。
どんなことも曖昧にせず、感動を真っ直ぐに表現し、
リスを見たあの子のように、透明感を持ち続けたいと、
私は思うのですが、いかがでしょうか。』
その続きを再現する。
* * * * *
実は、私たちの身近にいる同世代の中にも、
あの子らと同じように、
充実した生き方の手がかりを教えくれている方々がいます。
これも3つ、紹介します。
1つ目、場所は総合体育館内のトレーニング室。
そのロッカールームでの1コマです。
汗を拭きふき、着替えに時間がかかっていました。
すると、体を動かし終えた同世代の方が2人、戻ってきました。
聞くとはなしに、2人の会話が耳に入ってきました。
「今夜は、シルバーのアルバイトで、斎場の交通整理なんだ。」
「あれ、ちょっとした小遣い銭稼ぎになるよねぇ。」
「そうなんだよ。これからは寒いけど、
時々なら、いい小遣いが入るから・・。」
「まあ、元気だからできるんだよ。」
そう言いながらも、私より早く着替えが進んでいきます。
会話も続きました。
「元気はいいが、最近物忘れがひどくてさ。」
「そうそう、同じだよ。」
「家にいても、さっき置いた物の場所を、
すぐ忘れてしまうんだよ。
探し物、ばっかりさ。」
「まったくだよ。忘れる! 忘れる!」
「もう、どうしようもないわ。」
「本当だ。本当!」
2人は、そう言い合いながら、
さっさと着替えを済ませ、ロッカールームを出て行きました。
ところが、そのベンチにタオルが1枚残っていました。
私は、あわてて廊下に顔を出し、タオルをかざして、
「あのー、タオル、忘れてますよ。」
「ほら、また忘れた。」
私の声に振り返り、2人は顔を見合わせ、大笑いをしていました。
おおらかに老いを笑い飛ばす2人。
全然老け込んでなんかいません。
何故か肩の荷が軽くなりました。
同時に、あの日「すげーえ、すげー!」
と言っていた中学生(前回ブログ参照)の、あの明るさを思い出しました。
どこか似ているように思えてなりません。
2つ目は、これまたトレーニング室での出会いです。
ランニングマシンで走って、大汗をかきました。
他の機器を使うため、Tシャツを着替えにロッカールームへ戻った時です。
そこで、汗を拭いていると、
見慣れない同世代の方が、額に汗を浮かべて入ってきました。
私を見るなり、「定期券、持ってるの?」と、訊いてきました。
伊達に来てからは、こんな何の前ぶれもない問いかけに、
だいぶ慣れたので、私は即答しました。
「いや、回数券です。」
「そうか。」
しばらく、沈黙がありました。
ご存じかと思いますが、
トレーニング室の料金は1回300円、
回数券なら3000円で11回、
定期券は6000円で3ヶ月何回でも利用できます。
「それで、週どのくらい来るの。」
再び訊いてきました。
「そうですね、週1回か2回です。」
「じゃ、回数券がいいか。
俺さ、定期券買ったんだよ。
それでさ、なんか勿体ないから、毎日来てるんだ。
損しないようにって、
時々、午前と午後の2回来る日があるんだけれど、
もう、疲れちゃって。」
「それは、頑張り過ぎですよ。」
「そうか、体、壊しちゃうな。今度は、回数券にするわ。」
話しながら着替えを済ませ、
「じゃ、また」と彼はロッカールームを後にしました。
「エッ、勿体ないだって。1日2回も・・。誰か、止めてやらないと」
そう思いながら、その生真面目さが、
「エッ、ちがうよ、オジサンじゃないよ」
と、言い合っていた下校中の小学生(前回ブログ参照)と重なりました。
そして、もう1人、紹介します。
市役所から依頼があり、国勢調査の調査員を引き受けました。
担当は百数十軒の世帯でした。
調査依頼を始めて3日目でした。
あるお宅を訪ねた時、ご主人は丁度家庭菜園の手入れをしていました。
作業の手を止めて、調査書類を受け取り、
私からの一連の説明も真剣に聞いてくれました。
そして、世帯主名と同居者の人数を聞き取ったその直後でした。
「これ、いつからやってるんだ。」
「訪問ですか。3日前からですが・・。」
「3日も前からなのに、随分遅いじゃないか。
早くもって来いよ。」
ご主人の声は、やや尖っていた。
私は、その勢いと予期しなかった言葉に驚き、
「それはそれは、失礼しました」。
軽く頭をさげ、その場を立ち去りました。
当然、不快感が残りました。
でも、気持ちを切替えて、次の家へと・・。
そして、翌日の夕暮れ時でした。
同じ通りで、留守だったお宅に再度依頼へ行きました。
「早くもって来いよ」のお宅前を通りました。
たまたま玄関からあのご主人が出てきました。
すぐに、私を呼び止めました。
「まだ、配っているの?」
「はい、留守の所があるもんですから・・」。
できるだけ明るい声で応じながら、
またクレームかと身構えました。
「丁度よかった。俺さ、昨日変なことを言ってしまった。
沢山の家を回るんだから、何日もかかるのに、
いや、済まなかった。」
ご主人は、軽く頭をさげ、静かな表情で私に向かって続けました。
「あんたがいなくなってから、気づいてさ・・。今、会えてよかったよ」。
「いえ、いえ・・、そんな・・。」
ご主人の気持ちの変化が、手に取るように分かりました。
そして、リスの出現とその後の不安、困惑、
そして安堵する少年の思い(前回ブログ参照)と、
このご主人の心境に、共通性を感じました。
さて、「学ぶ」と言う言葉の語源は、
「真似る」だと聞いたことがあります。
今日、紹介した子ども達や同世代の方々から、
これからの長い人生の過ごし方を学びたいと思いました。
まずは、日々の何気ない時と場で、「見よう見まね」。
そっと、真似てみよう・・と。
ヒナゲシの季節も過ぎる
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