ジューンベリーに忘れ物

シンボルツリーはジューンベリー
どこかに沢山の忘れ物をしてきた気がして

エッ! そんなことって

2017-05-05 19:59:48 | あの頃
 NHKの朝ドラ『ひよっこ』に、夢中だ。
みね子の澄んだ心、すっかりファンになってしまった。

 今週は、みね子が集団就職で東京に着き、
初めての仕事に、悪戦苦闘する日々が続いていた。
 『頑張れ、みね子!』

 高校を卒業してすぐ、
列車で上野駅に降り立ったみね子。
 その不安げな表情と、
駅の壁に大きく張ってあった
『きょうからは東京の人です』のスローガンに、
もう45年以上も前の私が、共感していた。

 それはさておき、みね子と同じように、
私の友人の1人も、高校を卒業するとすぐ、
東京に就職した。

 彼のことを、幼友だちと言うのだろうが、
私はそう思っていない。
 彼に改めて尋ねたことはないが、
彼は、同じ保育所に私がいたことさえ、
記憶にないと思う。

 3歳児から保育所生活をしていた私だが、
彼=T君は、5歳児つまり年長さんの時に、
保育所に通い始めた。

 だから、私の方がはるかに先輩なはずなのに、
その待遇は全く違っていた。

 T君とY子ちゃんの2人は、
すべての子どもが登所してから、いつもやって来た。
 しかも、当時としては大変珍しく、
乗用車での登所だった。

 2人は、なかよく手をつないで車から降りた。
T君は、ワイシャツに上下そろいの半ズボンと上着、
Y子ちゃんは、ひだスカートにブラウス、ベレー帽だった。

 2人が玄関に着くと、沢山の子が出迎えた。
私も大勢の1人として、その集団の最後尾あたりにいた。

 帰りも、誰よりも早かった。
迎えの車が来ると、先生が声を張り上げた。
 「T君とY子ちゃんが帰りますよ。
さよならしましょう。」

 遊んでいた子ども達が、一斉に玄関へ集まった。
「T君、さようなら。」「Y子ちゃん、また明日!」
めいめい声を張り上げた。
 その時も、私は最後尾あたりで、
その様子を見ていた。

 Y子ちゃんはもちろん、
T君とも遊んだことも、言葉を交わしたこともなかった。
 すごく賢そうな2人を、遠くからだけ、
そっと見ていた。

 それから約10年後だ。
『若くして逝った友』と題してこのブログにも書いたが、
「中学3年の時だった。
担任が替わり、学級の雰囲気が一変した。
 それまで、さほど交流がなかったクラスメイトが、
打ち解け合った。
 自然、気の合った者同士が、さらに交流を深め、友情が芽生えた。」

 その時、私には、5人グループができた。
その1人が、なんとT君だった。

 1年後、彼と私は、同じ高校へ進学した。
彼は放送部、私は生徒会で充実した高校生活を過ごした。
 学級は違ったが、行動を共にすることが多かった。
夏のキャンプ、冬のスキーを一緒に楽しんだ。
 
 保育所の頃の近寄りがたさは、ウソのよう。
彼は、気さくで遠慮など不要な人柄だった。

 高校3年になった。
当然、私立大学への進学だって可能な家庭環境に、彼はいた。
 しかし、突然、東京のガソリンスタンドで働くと宣言し、
大学受験を回避した。

 何故、大きく進路を変更したのか。
その真意を知る機会はなかったが、
「東京で頑張るよ。」
彼は明るく言い残し、旅立っていった。

 そんな彼との再会は、大学を卒業し、
東京の小学校に赴任してからだった。

 彼は、その4年間で、
車整備等仕事に関する様々な資格を取得した。
 そして、会社からは、大きなガソリンスタンドの店長を、
任されるようになっていた。

 それだけではない。
その働きぶりは、
そこのガソリンスタンドを利用するお客さんからも、
高い評価を受けていた。

 数年後、遂にお客さんの1人であった、
車関係の会社社長から誘われた。
 結婚を機に、彼は好条件でその会社へ転職した。

 「こうして体を動かして働くのが好き。」
時々、顔を合わせ、酒を酌み交わすたびに、
彼が口にした言葉だ。

 会うごとに、彼らしさに輝きが増した。
人当たりのよさに、私も惹かれた。
 並みの努力ではないと思った。
保育所のエリート、そんな面影などどこにもなかった。
 誠実に仕事と向き合うビジネスマンだった。

 まったく職種は違ったが、大きな刺激を受けた。
併せて、自慢の友人として、胸を張った。

 30歳を少し越えた頃だった。
彼も私も、2人の子どもに恵まれていた。
 世間では、しきりに団地住宅の分譲販売があった。

 私は、思い切って人生初の、
大きな買い物を決断した。 
 
 その分譲団地の完成を待って、引っ越しをすることにした。
彼には、事前に転居を知らせるべきかどうか、迷った。
 
 私より4年も早く働き始めた彼である。
その彼より先に、分譲団地とはいえ家を持つ。
 余分な気遣いと言えなくもないが、私はためらった。
結局は、無事に引っ越しを終えてから、
知らせることに決めた。

 引っ越しの日が来た。
私は、5階建ての団地の1階を選んだ。
 多くの家族が、同時に引っ越し作業をしていた。

 急に、前の棟の同じ5階建てに、目が止まった。
心臓も止まりそうになった。

 引っ越し荷物を積んだトラックと、
芝生の広場を越えた、すぐそこに、
見憶えのある顔があった。

 「何、してるの?」
かけ寄って、声をかけた。

 ビックリした顔が答えた。
「君こそ、何、してるの?」
 「エッ!俺?・・・引っ越し!」
「どこに?」
 「そこ、目の前。・・・T君は?」
「エッ!俺?・・・引っ越し!」
 「どこに?}
「ここに。」

 同じ間取りの分譲団地の真向かいの棟。
しかも同じ1階を彼は選んだ。

 転居の知らせについては、
私と同じ思いでいたことを後で知った。
 その余分な気遣いに、
二人で手を叩いて大笑いをした。

 それにしても、北海道から東京へ。
そして、それぞれの道を歩んできた二人が、
再び、間近な所で暮らすことに。

 偶然とは言え、遠くて長い旅の途中、
そこでの出会いに、
 『エッ! そんなことって』と、
思うのは、私だけでしょうか。

 人生には、こんな面白いことがあるんだ。





  ジューンベリー 『開花宣言』
 

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