杜若(かきつばた)の咲くころ ~磐之媛命陵古墳
平城山(ならやま)から平城宮跡にいたる「佐紀盾列古墳群」のひとつに全長が200メートルを超える日本有数の大規模古墳「磐之媛命陵」がある。
多くの古墳が集中した、このあたりは市街地に接しているにも拘わらず、只ならぬ気配に満ち満ちている。
磐之媛命陵(ヒシアゲ古墳ともいう)はなかでも、水を湛えた外濠を持つ緑の美しい古墳である。
濠の水辺には青紫の杜若など初夏の花が見ごろを迎えていた。
磐之媛(仁徳天皇皇后)が天皇を偲んだ御歌
君が行き日長くなりぬ山たづね迎へか行かむ待ちにか待たむ
【通釈】あの人が旅に出て、もう何日も経った。山道を探しながら、迎えに行こうかしら。それとも、ただひたすら待っていようかしら。
かくばかり恋ひつつあらずは高山の磐根し枕きて死なましものを
【通釈】これ程まで恋しさに苦しみつづけるのよりは、いっそ高い山の岩を枕にして死んだほうがましだ。
万葉集に詠まれた歌ほどに愛された仁徳天皇。
ところが、堺と平城山と遠く離れた陵の意味するものは、いわゆる大人の事情というものであろうか。