(29)
「緑の穴」の周辺が大火に見舞われたのは、黒旗を掲げる反乱軍が突然現れたその夜のことでした。ダニールの指揮によって烏合の衆と思われていた反乱軍が強固な軍に変りました。
「緑の穴」は天然の要害で、洞窟はどこまで広いのか分からない鍾乳洞でした。奥に逃げられたら長期戦を覚悟しなければなりません。ダニールは中で戦うことを諦め、あぶり出し作戦をとったのです。
全員に油を持たせ、 . . . 本文を読む
(28)
白い剣士が黒龍の頭上に現われ、剣を頭に突き刺しました。龍は身体を痙攣させて湖に沈んだのです。
「ちくしょう!」
一部始終を見ていたチュウスケは思わず叫んで黒い槍を全弾スケール号に向けて発射しました。槍は空中に網の目のように拡がりスケール号を包み込むように襲いかかりました。逃げ場がないのです。
「博士!チュウスケの攻撃です。空いっぱいに槍が飛んでくるでヤす!!」
「ついに来たか。 . . . 本文を読む
(27)
「親分、あれは本当にスケール号ですかねポンポン」
「スケール号は銀色だったはずカウカウ?」
「色が違っても、あんな芸当が出来るのはスケール号しかいないだチュ。」
「親分の槍で確かに仕留めたポン。どうして生きているのだポンポン?」
「ええい、うるさいだチュ。あ奴は生きているだチュ。前にいる黒猫はスケール号だチュうのだ。忌々しい奴だ。」
「親分、ス . . . 本文を読む
(26)
タウ将軍がストレンジの王に謁見を求めたのはチュウスケの山焼きが始められてからでした。森を這う火の龍を発見した時、タウ将軍がついに動き出したのです。
バリオン軍の総司令官として、タウ将軍はすぐにでも軍を動かし、反乱軍を打つべしと考えていました。しかしバリオンの王様はストレンジの姫の救出を優先させ、あろうことか、本人自らその救出作戦に参加しているのです。王のやり方は、軍人からすれば理解し . . . 本文を読む
(25)
カキーン、カキーン、カキーン
剣の打ち合う音がくすんで汚された迎賓の間に響いています。一人は頭巾を肩に垂らした黒ずくめの男で、もう一人は衛兵の軍服を着た男でした。黒ずくめの男は流れるように剣を使い、あたかも鳥が舞うように見えました。一方軍服の男はまっすぐ敵の急所を突いていく剣なのです。柔と剛、二人を眺めれば虎と燕が戯れているようにも見えるのです。
エルとダニール、二人はともに親衛隊 . . . 本文を読む
(24)
黒いスケール号がフェルミンの額に止ると本当のハエのように見えました。ところがスケール号の窓から眺めるフェルミンの姿は大きな丘に見えるのです。のぞみ赤ちゃんの額に止ったときは何もない湿地のような平原に見えましたのに、フェルミンの額は乾燥地帯でした。地面はひび割れ、枯れた泉が点在するばかりでした。スケール号はその枯れた泉の水脈をたどりながら縮小を続けていきました。
「どうだ、チュウスケは . . . 本文を読む
(23)
豊かな森をイメージさせる彫りもので埋め尽くされた豪華なベッドがありました。中天に黄金色の太陽を模した天蓋が付けられ、白いレースのカーテンがベッドを覆っていました。別の部屋には落ち着いた色調の調度品がおかれ、花柄の絨毯が敷き詰められています。壁には暖炉があって、その上にアーチ状の飾り鏡がはめ込まれているのです。テーブルとソファーはそれだけで和やかな会話が交わされているように見えました。そ . . . 本文を読む
(22)
「待ってくれ、今はまずい。」エルがきっぱり言いました。
「どうしてだ。」博士の余裕のない声です。
「猫で見つかったら、猫のままでいいのです。猫のままで切り抜けましょう。大きさで逃げるのは最後の最後です。」
ここで大きさを変えて逃げるのは簡単ですが、それでは隠密の意味がないというのです。このことがネズミに知られたら、姫様が危険だ。エルはそう言って、博士の考えに反対し . . . 本文を読む