(26)2010.3.7(絵の神様)
今日は一本の堂々とした線を引いた。 その線から次の線が生まれ、次々とまっすぐな横線が平行に拡がっていく。 母の姿はもう絵描きになりきっている。線に乱れがない。 ところが途中で母の手が止まった。何かに逡巡している様子だ。私はしばらく様子を見ていた。 「こいだけやったら足らんの・・・」独り言のよ . . . 本文を読む
(25)2010.2.27(額入り)
今日の絵は直線が多かった。 迷いもなくすいすいと線が引けた。 それが画面を越えて拡がりすぎ、それから先が進めなくなった。 「なっとうしたらええんなら?」 「好きなように描いたらええねん」
さりげなく突き放してみる。 「なっとう描いたらええんか思いうかばなだょ」 「おもわ . . . 本文を読む
(24)2010.2.20(記念写真)
母にはいつも気にかかっている孫がいる。3歳のときから預かって、短大まで育て上げた。子供より可愛い孫だった。それがぷっつり音信が途絶えて5年になる。今頃なっとうしとんのやろのぅ、どこに行ってしもうたんかの、病気しとんのか、帰ってこれんとこにおるんやろかのぉ。心配で胸痛む日々だった。 その孫が、施設を訪れておばあちゃんに会いに来た。 結婚して二 . . . 本文を読む
(23)2010.2.13(日差しの中で)
窓から日差しが入ってくる 「今日は暖かな日やで、外に行ってみようか」 「ええの、気持ちええ天気やでなぁ」 華やいだ声が返ってくる。
スケッチブックを車椅子に載せて 厚手の上着を着て外に出た。 外の空気には自由が感じられて心が浮き立つ
透明の空気、そして透 . . . 本文を読む
(22)2010.2.7(日高川)
この頃には珍しくマーカーを持ったまま止まっている。
「なにょう描いたらええんやわからん」 おばあちゃんはスケッチブックの上でマーカーを宙に浮かせたままだ。頭の中で目に見えるものを写し取るというデッサンの常識が働いているのだ。そんな時は決まって何を描いていいかわからんと言い出す。常識は本物の絵の邪魔をする。そんなこと . . . 本文を読む
(21)2010.1.24(一流)
「これで描いてみるか?」
いつものスケッチブックでなく一枚ものの紙とマーカーを渡す。私が洗濯をする間に一人で線をひく。色も自分の好みを使い始めた。絵が母の中で開花したのだろう。描くその姿に無心が伝わってくる。
マーカーで線を引く。その上から色をのせる。それが母のスタイルになった。
形が取れない母は、形を意識しないで絵の世 . . . 本文を読む
(20)2010.1.16(ピカピカの1年生)
「おばあちゃんの絵を楽しみにしてくれる人がいるんやで。ほらこのおばあちゃんの描いた絵見てみいな、81歳の素敵な絵を描いてください、楽しみにしていますって書いてくれてるやろ。」 「ほに、そうやな。」 「みてみ、ゆうたとおりやろ、おばあちゃんの絵は一人前の絵なんや。」 . . . 本文を読む
(19)2010.1.11(名前が書けた)
大腿骨の骨折から、母の足は随分弱くなった。手術は成功したけれど、膝が曲がって車椅子なしではどこにも行けない。
母のお絵かきは、そんな身体のリハビリにはならないが、塞ぎがちな心を開いて、若返らせる効果がある。母の絵を見ていてそう思うことが多い。
思考力が鈍って絵のイメージを持ち続けられな . . . 本文を読む
(17)2009.12.26(神様の絵)
母とのお絵かきリハビリをブログで公開している。時々ブロガーから温かいコメントが届く。そんな時はそのページをプリントして母に持っていく。
「見てみ、おばあちゃんの絵、きれいや言うてくれる人がいるねんで。素敵やねんて」
「こんなんでもの?」そう言いながらも母の顔にとても明るい笑顔が現れた。手に持ったマーカー . . . 本文を読む
(16)2009.12.23(ひとつしかない絵)
まず最初に描きだすまでが大変だ。気長に待って、やっと手が動き出す。今日はそんな日だった。 紙の上でマーカーを動かすが、宙に描くばかりで紙に線が引けない。母が納得するまで気長に待つしかない。
ふと手が揺れてマーカーの先が紙に触れた。そこから手が動く。線が白い紙の上に現れてくる。すると . . . 本文を読む