やがて搭乗開始のアナウンスが流れ、772便に搭乗する人々がゲートの前に列を作り始めた。その行列を見て私の煮え切らない心が一気に危機感に染まったのである。
これはおかしい!!荷物のことだった。直感的にそう思った。
列をつくっている人々の誰もが皆荷物を携えているのだ。どこかに荷物を受け取るところがある!!そうでなければ彼らがそれを持っているはずはないのである。
もはや見栄も何も言っていられな . . . 本文を読む
25番ゲートは一番奥まったところで、改札を通って随分時間を要したように思えた。自分の肩に力が入っているのを意識しながら、カウンターで搭乗手続きを済ませた。それは今までの苦労を考えればあまりにも簡素であっけないもので、私はチィケットの代わりに渡された搭乗券を拍子抜けしたように受け取った。
私は搭乗開始までの間、ベンチに腰を下ろして待つことに決めたが、次第に浮き立ってくる気持ちを抑えるように手 . . . 本文を読む
浮かんでくる思いを様々に詮索しながら長い25番ゲートへの通路を歩いた。すると前から、紺色の制服を着た女性が片手に書類を抱えて初々しさを漂わせながら闊歩してやってきた。私達は自然にすれ違ったのだが、そのとき彼女は私を見て奇妙な顔をしたのだ。私は怪訝に思った。
彼女は何か滑稽なものでも見るような眼差しで私を見、その視線が一瞬私の下半身に向けられたように思えた。誘われるように私は自分の下半身に目 . . . 本文を読む
「改札は一つだった。コンベアーも一つだった。しかし中に入るとゲートはたくさんあって、しかもそれぞれが遠く離れている。こんな状態でどうして荷物が各ゲートに届けられるのだろう。
しかも荷物を渡すとき、これが私の荷物であり、この私が25番ゲートに向う乗客だというような確認は一切なかった。そもそもこの私が誰であるかさえわかっていないはずではないか。
するとどうして私の荷物が25番ゲートに届くのだろう . . . 本文を読む
そのとき私の胸には、どうだ、俺は悪い人間ではないだろうという驕慢な昂ぶりがやってきていた。そしてそれを誇示するためにわざと体を大きく開き、左右にねじってブレザーの背中の間にまで係官の手を誘い込んだ。
チェックが済むと。私は25番ゲートを探した。そしてそのゲートの表示はすぐに目の中に飛び込んできた。私はようやく確信と安心を得て、うまくやれたという思いを乗せて闊歩してゲートに向うのだった。私は . . . 本文を読む
改札を通ると、私の前にも後ろにも列が出来ていた。自然に順番を待つことになったのだが、見ると前のものは順番に手荷物を取られて腰の高さのベルトコンベアーに乗せられていた。
その様々な荷物達はまっすぐに進んで、魚の口が開いたような穴の中に次々と吸い込まれていった。
その光景は私の頭の中で、里依子を待ったあの到着ロビーの、ベルトコンベアーを流れていく荷物達としっかりつながるのだった。
「ここで渡 . . . 本文を読む
私は自分に余裕のあるところを見せようと思い、出来るだけゆっくりとした足取りでトイレに入った。その動作は私の意識に中につまびらかにあって、私は自身が演者でありながら同時にそれを観るものとして、動かす指先のその先端まで見ているのだった。
トイレの中はごみ一つなく、必要以上に磨き込まれた室内に清楚な便器が並んでいた。私は心までも清められてしまいそうなトイレをこれまでに見たことがなかった。便器の前 . . . 本文を読む
やがてどうすることも出来ず、私は勇気を奮って2階ロビーにある案内のカウンターに近づいた。私が随分上ずった調子で聞いたのだろう、係員はにこやかにではあったが、二度同じことを繰り返して説明した。
中央の改札でチィケットを見せて入場すること。
入場すればもう出られないこと。
改札を入って25番ゲートに行き、そこで搭乗手続きをすること。
ありがとうと言ってカウンターを離れた私が知りえたのはそ . . . 本文を読む
物知り顔でカウンターにチケットを示すと、意外な返事が返ってきた。
「これは二階改札に入っていただきまして、25番ゲートで搭乗手続きをして下さい。」
その声はとても上品な響きがして、二十歳代の明眸な係員によく合っていた。
しかし私はそれどころではなく、二つしかない空港の知識の片方をいとも簡単に覆されたことにうろたえた。
カウンター越しに受けた案内をああそうですかと答えたものの、説明され . . . 本文を読む
私は悠然としていなければと自分に言い聞かせ、キュッとブレザーの襟を引き締めて空港のロビーに向った。
それでもその空間は私の想像を超えて広がり、私を驚かせ、拒もうとするかのように威圧的で、ただ広かった。
私は戸惑い、心のすがる場所を見つけられずに、最初からこの胸を騒然とさせていた。
そんな心を誰かに見られているかのように思い、それを隠そうとして、私はわざとゆっくり歩き、平然と構えていた。
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