子供嫌いだった一人暮らしのおばあさんが、その日から人が変わったというのが、近所のうわさになった。
おばあさんの家からは、いつもおいしそうなお菓子の匂いが流れて来て、子供達の鼻をひくひくさせた。
窓は大きく開け放たれ、不気味だった庭の柵も取り払われた。だれでもおばあさんの家の前にくると、おばあさんが元気にケーキを焼いている姿を見ることが出来た。
毎日おばあさんの家には子供達の笑い . . . 本文を読む
おばあさんの家のタンスの上に、もうすっかり古くなってすり切れてしまったクマのぬいぐるみが置いてあった。
「おばあさん、あれは。」ぴょんたが聞いた。
「ああ、あれかね、今までなんとなく捨てられなくてね、子供のころからもっていたものだよ。おかしいかい。」
「マギーちゃん」ぴょんたは小さなぬいぐるみをしみじみと見た。
「そう、マギーちゃんだったわ。どうしたんだろう、不思議な気持ちだわ。 . . . 本文を読む
「ピピちゃん。」ぴょんたがものかげでそっと呼びかけた。
「だれだね、なつかしい名前を呼ぶのは。不思議だね、もうすっかり忘れていたけれど、私にもそう呼ばれていたころがあったわね。だれだか分からないけれど、もう一度私の名を呼んでおくれ。」
「ピピちゃん。」ぴょんたがもう一度呼んで、おばあさんの前に顔を出した。
「あら、あなただったの。なんだかなつかしい気がするわ。昔どこかで会ったかしら。 . . . 本文を読む
何日かたって、
「おばあさんに会いたい。」突然ぴょんたが言い出した。
もこりんもぐうすかもぴょんたに賛成した。
「分かった、もう一度おばあさんに会いに行こう。」艦長が言った。
艦長の一言でで乗組員達はそろってスケール号に乗り込んだ。
「スケール号、おばあさんの家に直行だ。」
「ゴロニャーン」
艦長が命令するとスケール号はトンと塀に駆け上り、その上を本物の猫よりすばやく駆け抜けた。
おばあ . . . 本文を読む
「さあ、これからもう一度遊園地にもどるのだ。」博士が言った。
スケール号は窓を抜けて外に飛び出した。外はまだ夜明け前の薄い闇が漂っていた。そんな中をスケール号は、あっと言う間に駆け抜けた。遊園地はまだ眠ったように静かなはずだった。
ところが眠っている遊園地からオルゴールのような音が聞こえてくるのだ。スケール号は音のする方に向っていった。
薄明かりの中で、メリーゴーランドがゆっくりと回って . . . 本文を読む
九、おばあさんいつまでも幸せに
スケール号は緑の海を飛び立った。眼下にはピンクの川が流れている。その途中に、紫色に変色した淀みが見える。するとそこから白い光が放射状に飛び出して来た。紫色の淀みは見る見るピンク色に戻って行った。 緑の海の中に、ピンクの川が一本の流れとなって、ゆったりと流れ始めた。エネルギーの海は七色の光が点滅してこの世とも思われぬ世界が現れた。
「これが健康な心の世界な . . . 本文を読む
「ウサギちゃん!」ピピがぴょんたに飛びついて来た。
「ピピちゃん、無事だったんだね。良かった。」ぴょんたはピピを抱きしめた。
「ウサギちゃん、苦しい。」
「ああ、ごめんごめん。」
「ウサギちゃん、肩車。」
「ようーし、ほら。」ぴょんたはピピを軽々と持ち上げて、自分の肩に乗せた。
「ピピ、そろそろお別れだよ。ウサギちゃんはそんなに長くここにはいられないんだ。」ムカエルが肩 . . . 本文を読む
ピピはぴょんたの立っていたあたりに駆け寄った。そこにはぴょんたの姿はなく、ただ耳だけが落ちて海に漂っているばかりだった。
「ウサギちゃん、ピピのために・・・」ピピは泣きながらぴょんたの耳を拾いあげた。
「ピピのせいなのね。」
ピピはぴょんたの耳にほおずりして胸に抱き締めた。
ぴょんたの耳はピピの胸の中でしおれて今にも溶けてしまいそうだった。
「ごめんね・・・」
そうつぶやくと、 . . . 本文を読む
「ウサギちゃーん」ピピが叫んだ。
その一瞬だった。
ムカエルがピピの心の中に飛び込んだ。
やがてどす黒いピピの体が、少しずつ白い光に包まれ始めた。
光が次第に増して行き、温かい光の繊維で紡がれたような、輝くまゆのようになってピピの姿を包み込んでしまった。
まゆは揺りかごのように揺れながらエネルギーの海の上に浮かんでいた。
静かないやしの時間があった。
スケール号ではぴょんたの死を悲 . . . 本文を読む
バチバチとぴょんたの体から火花が走った。
「く、苦しい!」ぴょんたの体は見る間に緑の海に分解され始めた。
「ぴょんた、だめだ、すぐ帰って来い!」艦長が叫んだ。
「ぴょんたが死ぬでヤす」
「ぴょんた、戻ってくるだス!」
スケール号の中は悲鳴のような声が次々と上がった。
「さあ、ぴょんた、頑張るのです。あなたの心でピピの心の扉を開けるのです。」ムカエルがぴょんたに言った。
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