(23)-2
「やめなさい。」
フェルミンの叫んだ口をふさぐようにダニールの手が素早く動きました。
丸薬を押し込んだままその手がフェルミンの口を押さえつけてしまったのです。
もがく身体を数人がベンチに抑え込みました。やがて抵抗する力が消えました。
押さえつける手が緩んだ瞬間、フェルミンは手を跳ね上げて立ち上がったのです。
そして丸薬を吐き出しました。しか . . . 本文を読む
(23)-1
豊かな森をイメージさせる彫りもので埋め尽くされた豪華なベッドがありました。
中天に黄金色の太陽を模した天蓋が付けられ、白いレースのカーテンがベッドを覆っていました。
別の部屋には落ち着いた色調の調度品がおかれ、花柄の絨毯が敷き詰められています。
壁には暖炉があって、その上にアーチ状の飾り鏡がはめ込まれているのです。
テーブルとソファーはそれだけで和やかな会話 . . . 本文を読む
(22)
「待ってくれ、今はまずい。」
エルがきっぱり言いました。
「どうしてだ。」
博士の余裕のない声です。
「猫で見つかったら、猫のままでいいのです。猫のままで切り抜けましょう。
大きさで逃げるのは最後の最後です。」
ここで大きさを変えて逃げるのは簡単ですが、それでは隠密の意味がないというのです。
このことをネズミに知られたら、姫様が危険だ。エルはそう言って、博 . . . 本文を読む
(21)
「そっちに行ったぞ!」
「右だ!」
「左だ!」
歓声の中、金色の猫が宮殿から中庭に飛び出してきました。
ところが広場は騒ぎを聞きつけた兵士で埋まっていたのです。
逃げ場を求めて突進する猫の道が盾でふさがれ、進路を変えると、
そこにも盾が現れます。猫はいつの間にか盾の壁に追い込まれていったのです。
兵士たちは楽しむように猫を追い詰めていきまし . . . 本文を読む
(20)
フェルミンは元気で朗らかな、優しい子供でした。野原を駆けまわるのが大好きで、
王宮にある森に興味を持って、ふと気付いた不思議があると、
それを探ろうとどこへでも探検する活発な子だったのです。
野外の空気はどこまで行っても広く、清らかに感じられました。
不思議なのはいつも、フェルミンが遊んでいると森の動物たちが集まってくることでした。
フェルミンが森で迷子になっ . . . 本文を読む
(19)-2
それにしても、バリオン星は確かに強大な力を持っていました。
チュウスケ自らがバリオンから発射された黄金の槍の餌食になって大けがをしたばかりなのです。
それは見たこともない武器でした。
いかにストレンジの軍を掌握して軍備を整えてもストレンジには勝てない。それはチュウスケにも分かっていました。
けれども、いかに強大な軍隊であっても、内に潜り込めばチュウスケの思う . . . 本文を読む
(19)ー1
ストレンジの王宮はまるで廃墟のようなたたずまいになっていました。
壁が崩れても、石畳に兵士の屍骸が転がっていても、誰もかまうものはいないのです。
機能的に、通行の邪魔になるものだけが取り除かれ、それ以外の場所にはたくさんの戦死者が鎧兜や折れた武器などと共に転がっていました。
悪臭が立ち込め、尋常の者なら一刻も耐えがたいでしょう、空気が腐っているのです。
反乱 . . . 本文を読む
(18)
ストレンジ王メイソンは白髪の老人でした。
かりそめの王座に座った王は、苦渋に満ちた顔をしていました。
憔悴した姿は今にも崩れ落ちそうに見えるのです。
無理にベッドから身を起してきたのでしょう。傍らには心配そうにたたずむ后の姿がありました。
「ストレンジの王、メイソンよ、どうかベッドに身を横たえて、御身を御自愛下され。私がそちらに参りましょうぞ。」
「王様、バリ . . . 本文を読む
(17)-2
「頑張って。大丈夫、今助けてあげるからね。」
「どなたか知らぬが、この矢は抜けぬ。」
白鹿は苦痛に耐えながら言いました。
「大丈夫ダす。ぴょんたはお医者さんダす。しっかりするダすよ。」
「少し痛いけど、我慢して。」
そう言ってぴょんたは刺さった矢を一気に引き抜きました。
「クオーッツ」
矢は三本、ぴょんたは手際よくその傷口に薬をぬって万能絆創膏を貼って . . . 本文を読む