
先般、全国の漱石顕彰会などで組織する「夏目漱石記念年実行委員会」が熊本市で開かれ、「夏目漱石記念年」の全国のオープニング式典が2016年5月14、15日、熊本市で開催されることが決った。その後、全国の漱石ゆかりの地で様々なイベントが実施されることになる。
この機会に僕がぜひ実現をと願っているのが、2002年に野上記念法政大学能楽研究所が発表した新作能「草枕」。この能は夏目漱石の新体詩「鬼哭寺の一夜」の物語を、小説「草枕」の世界の中で展開するという、何とも不思議な能だという。現在、熊日新聞で再び連載されている「草枕」を毎日楽しみながら、新作能「草枕」を見てみたいという願望が益々募ってきた。
願わくば初演の時の野村萬斎のワキで見られるならこんな嬉しいことはない。
※右の絵は山本丘人『草枕絵巻』より「水の上のオフェリア」(原題「美しき屍」) 1926年
【新作能・草枕あらすじ】
旅の詩人が肥後の山里を訪ねる。菜の花が咲き、雲雀が鳴くのどかな春の山路をどんどん登って行く。「山路を登りながらこう考えた。智に働けば角が立つ 情に棹させば流される 意地を通せば窮屈だ とかくに人の世は住みにくい。住みにくき世から住みにくき煩いを引き抜き ありがたき世界をまのあたりに写す それが詩それが画・・・」などと思いめぐらせながら歩を進める。峠の茶屋も越え、七曲りも過ぎ、今宵の宿、那古井温泉も近くなった頃、俄かに雨が降り出す。やがて古い伽藍が見えてくる。さては峠の茶屋の姥が話していた長良乙女ゆかりの寺であろうと、ここで一夜を明かすことにした。すると仮寝の枕辺に女の霊が現れる。女の霊は詩人の問いに答えて、自分は長良乙女の霊だと告げる。二人の男に思いを寄せられ、どちらとも決めかねたあげく、鏡池に入水した身の上を語り、水底の舞を舞う。そして思いの丈を謡に託し、春の暁の中に姿を消す。