
茶室仰松軒を茅葺屋根の裏木戸から眺める

新緑溢れる池の畔
今年になって初めて泰勝寺跡に行った。閉園時間の1時間くらい前だったので、他には入園者もなく、森閑とした園内は、木々や竹が風にそよぎ、遠くで鳥が鳴いていた。しばらく歩を止めて池の水面を眺めていると、どこかで誰かが謡を呻っているような気がした。
父はまだ四つか五つの頃、この泰勝寺に住んでおられた長岡家に日参していた。お坊ちゃまの遊び相手だったが、屋敷で謡曲のお稽古が行われる日は、幼い父も末席に侍らせられていたという。父は謡曲「田村」の「ひとたび放せば千の矢先・・・」という一節だけは終生忘れなかった。そんなことを考えていたら、わけもわからず座敷に座らせられている幼い父の姿を想像し、思わず笑いが込みあげた。