イタリアの昔ばなし/クリン王/安藤美紀夫、剣持弘子・編訳/小峰書店/1984年
もてすぎる男もあちこち気をつかわないといけないので大変。
父親が亡くなって、王さまの召使になったサンドリーノでしたが、お妃に気にいられて、このままでは王さまに気づかれてしまうと、別の町へ。
ところがここでも王さまのむすめに気に入れられ、面倒なことがおこらないうちにやめて、ある王子のところへ。ところがここでもお妃がサンドリーノを愛するようになったので、そこも立ち去ります。
サンドリーノは、自分の美しさをのろって、わざわいから逃れるためには悪魔に魂をやってもいいと、言ってしまいます。そのとたん若い紳士が目の前にあらわれ、「ズボンをあげるが、いつも身に着けていて、七年間のあいだ、顔も洗わず、髭もそらない、髪も爪もきってはならない。七年後にはズボンをかえしてもらいにきます」と言って、消えます。
このズボン、うごくと金貨がポケットにいっぱいになるズボン。金貨をとりだすと、またいっぱいに。
ある町で宿をとり、一日中ズボンからお金をだして積み上げていきます。用事をしてくれる人、貧しい人が手を出すたびに金貨を一枚やっていました。おかげで宿の前にはいつも行列。
お金にはこまらないサンドリーノは、高い屋敷を買い、家具、調度をすっかりかえ、一階の部屋を全部鉄で裏打ちさせ。出口をふさがせ、自分はそのなかに閉じこもり、ズボンからお金をだしてすごします。そして一つの部屋がお金でいっぱいになると、次の部屋にうつるを繰り返します。
時がたつと、爪は羊の毛をすく 櫛のようにながくなり、体の表面は、どこもかしこも指一本ほどの垢がこびりついて、もう人間というよりけだものといったほうがいいくらい。
ある日、この町の王さまが、隣の町から宣戦布告されますが、戦争をもちこたえるだけのお金がなくサンドリーノにお金を貸してくれるようたのみます。
サンドリーノは、王さまの三人のお嬢さまのどなたかひとりを、妻にくださることを条件にお金を貸すことにします。
肖像画を見た二人の娘は、結婚をことわりますが、末の娘が承諾します。末の娘は先見の明があったようですよ。
約束より多い金額を王さまにわたしたサンドリーノが、結婚式に必要な衣装をつくらせ、四つの浴槽に入ってからだを洗いはじめます。ちょうど七年がたって、垢がおち、もとの美しいはだが見えるようになり、髪も爪も切りましたから、万々歳の結末かと思うと・・・。
やがてやってきた悪魔が、サンドリーノの魂とひきかえにズボンを取り戻そうとします。
ところが、悪魔がいったのは、「おまえの魂のかわりに、おまえはべつの魂をみつけてくれたから、おまえをそっとしといてやろう」と意外なことでした。
悪魔がもっていったのは、王さまの上の二人の娘の魂でした。
じつはこの二人、サンドリーノと末のゾーザの結婚式の宴会で「あんなうれしそうなふたりを見ないですむなら、悪魔に魂をやってもいいわね」と、ささやいていたのでした。
ところで、前半のズボンをくれるところで、魂とひきかえというのがでてこないので、最後のスリルにつながらないのと、戦争がどうなったかはどうでもよくなって、結婚式の豪華な準備がつづくのがややものたりない。ただ、オチには、二人の存在感があるのですくわれます。