亀が空を飛ぶという奇想天外な話。仕掛けは簡単で、亀が棒をくわえ、鳥に運んでもらっているということ。しかし、空を飛んでいる途中に棒から口を離し地上に落下して、亀の甲羅にひびがはいる(または死んでしまう)というもの。
12世紀日本の今昔物語にもあるというこの話は、世界のあちこちに見られるが、古くは2千年前に成立したとされるインドの「パンチャタントラ」にもあるという。
・カメと二羽の白鳥(パンチャタントラ)(カメと二羽の白鳥/世界名作おはなし玉手箱 語り聞かせお話集/齋藤チヨ/すずき出版/2000年初版)
カメがすんでいる池の水が干上がって、水のあるところを探しに、二羽の白鳥に助けてもらって空を飛んでいると、それをみた子どもたちが騒ぐので、カメが「なんでそんなに騒ぐんだ」と叫ぶと、カメが棒から離れて地上に墜落してしまいます。
・かめのこうらは、ひびだらけ(ブラジル)(こども世界の民話 上/内田莉莎子他訳/実業之日本社/1995年初版)
星のそばに行ってみたくなったカメ。歩いても歩いても星に近くならない。カメが悲しんでいるとあおさぎがとおりかかり、背中にのせてくれ空高く舞い上がる。実はあおさぎは魔法使いで、空中で宙返りして、カメは地上にまっさかさま。地面にものすごい勢いでぶつかったカメの甲羅はこなごな。しかし親切な魔法使いが甲羅のかけらをつぎあわせてくれます。
カメがかならずしも棒をくわえて空に飛び立つということでもなさそうです。
・バイバイ(ハイチ)(魔法のオレンジの木/ダイアン・ウォルクスタイン採話 清水 真砂子訳/岩波書店/1984年初版)
ハトが口に棒きれをくわえ、カメが棒のもう一方の片方のはしにくらいついて、ニューヨークをめざして飛びはじめる。大海原の近くまでくるとけものたちがハトとカメを発見して手をふる。うれしくなったカメが自分の知っているたったひとつの英語でバイバイと口をあけたとたん海に落ちていってしまいます。
・空をとんだかめの話(たのしいどうぶつ昔話 じょうずなわにのかぞえかた/マーガレット・メイオ・再話 エミリー・ボーラム・絵 竹下文子・訳/偕成社/1997年初版)
亀がワシに飛び方をおしえてくれと頼みますが、「むりむり はねもないじゃないか」と笑われます。
そこで亀は、いろんな鳥から羽を一枚づつもらって、甲羅にくっつけます。でもとべません。
ワシは亀を背中に乗せて空中散歩。一週間ほど続けてから、亀は飛べるよとワシの背中から飛び降ります。
亀の負け惜しみの捨て台詞が楽しい再話になっています。この絵本には、イソップ寓話がもとになっているという注釈があります。
・鶴と亀の旅(日本昔話百選/稲田浩二・稲田和子 編著/三省堂/2003年改訂新版
カメが地べたにいるだけではつまらないから天竺を飛んでみたいとツルにたのむ。そこで棒の片方をツルが、もう一方をカメがくわえて空に舞い上がる。それを見た村の子どもが「カメがツルにさらわれていく」とさわぎはじめると、カメは「さらわれていくんではない」と思わず口を開くと、棒から地べたに落ちてしまいます。
ニューヨークや天竺がでてくるあたりが、楽しいところです。
・馬のくつじゃないわい(愛媛のむかし話/愛媛県教育研究協議会国語委員会編/日本標準/1975年)
タイトルが楽しい。カメが、ツルのくちばしをくわえ空中へ。
下の原っぱで遊んでいたこどもたちから「ツルが馬のくつ、くわえとる」といわれ、カメが、「おら、馬のくつじゃあないわい。」と、くちを あくと、真っ逆さまに落ちてしまう。
・空を飛んだ亀(かたれやまんば第三集 藤田浩子の語り/藤田浩子の語りを聞く会・編/1998年)
日本
同じ話でも、藤田浩子さんの手にかかると、なんとも楽しい話に。
出だしから楽しい。むかしは亀はおしゃべりで、魚には地上の楽しさを、猫には水の中の面白さをいって、からかったり。ひとつだけ残念なことは、空を飛べないこと。そこで雁にお願いすることに。
亀の目玉が横についていて、空を飛んでいても、真下がみえないなど、亀の特徴をよく表しています。
・亀と雁(新版日本の民話57 埼玉の民話/根津富夫・編/未来社/1975年)
雁が亀を空につれていくが、ズドンという音で、空から真っ逆さま。
他の話と一味違うのは、ズドンという鉄砲の音で空から落ちてしまい、「羽がなくてしあわせ。空を飛ぶなんてことは大変なことなんだ。」と嘆息するところ。
今の暮らしが一番だと亀は思うのですが・・・・。