温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

黒石100円温泉(追子野木久米温泉) 閉鎖後の様子

2019年01月27日 | 青森県
温泉ファンから絶大な人気を得ていた黒石市の100円温泉。温泉分析書での名称は追子野木久米温泉ですが、その名前を言っても通じることは少なく、「100円温泉」として多くの方に知られていた温泉です。田んぼを埋め立てた更地に簡素なプレハブの平屋には、無人の温泉浴場が設けられ、その名の通り100円玉1つさえあれば、ツルツルの滑らかな掛け流しの温泉に入ることができました。

この100円温泉。元々は地元建設会社の保養施設だったのですが、いつの頃からか一般にも開放され、やがてマニアの間にその存在が知れ渡るようになりました。かく言う私も5回近くは利用を重ねていたでしょうか。拙ブログでも以前に取り上げております(その時の記事はこちらです)。私のような酔狂なマニアが全国からやってきて、皆さんそのお湯の良さと独特の佇まいに感動し、口コミによって知名度が徐々に上がって、とうとう2016年にはNHKのドキュメンタリー番組「72時間」などマスコミでも取り上げられるに至りました。
しかし、何があったのか、それとも既定路線だったのか、2017年3月末を以て閉鎖。その後営業再開の報は聞こえてきません。大好きだった温泉が過去帳入りしてしまう悲しさは筆舌に尽くしがたいものです。閉鎖から1年半が過ぎた2018年秋の某日、黒石市内を車で走っていた私は、その後の姿が気になってしまい、別れを告げられても未練たらたらで泣き縋ろうとする弱い人間のように、気付けば100円温泉の跡地へと向かっていたのでした。



霊峰岩木山が聳える津軽平野のど真ん中。
黒石市の某所へとやってまいりました。



閉鎖から1年半経った2018年秋の某日。まだ建物は残っており、100円温泉の看板も掲出されたままでした。



しかし、かつては軽トラや乗用車などいろんな車がひっきりなしにやってきた砂利敷きの駐車場に、いま車の姿は見当たらず、ただひたすら空虚な更地に成り下がっていたのでした。



湯屋だったプレハブに近づいてみましょう。
男女両入口の横には「夜 終わり」と手書きされています。刷毛に含ませた余分なペンキを落とさないまま書いて、文字の先端に滴の跡が残っちゃった手書きの案内は、この浴場の大きな特徴でしたね。「夜」と「終り」の間には8時と書かれ、その上から白いペンキで塗りつぶした形跡が残っているのですが、なぜこのような中途半端な消し方にしたのか、よくわかりせん。
男女双方ともドアは堅く閉ざされており、中の様子も窺えませんでした。


ここから先は2010年8月に撮影した画像で以前の様子を振り返ります。

 
温泉浴場というより倉庫かバラックと表現したくなるほど簡素なつくりで、整然という概念からも少々離れているこの無人の浴場の壁には、100円と手書きされた金属製の湯銭入れが括りつけられ、客は自分でまずそこに100円を入れてから入浴します
無人施設という性質上、どうしてもズルをする輩が一定数いるらしく、あらぬ疑いを掛けられないよう「100円をみんなにみせる」と、これまた黒いペンキが滴る刷毛で書いたと思しき注意喚起が館内の壁に書かれていました。凶悪犯が現場に殴り描いた犯行声明を彷彿とさせるこうした数々の手書きメッセージは、他の温泉浴場では滅多にみられるものではなく、この100円温泉を語る上では欠かせないエッセンスでした。ここを訪れた温泉ファンの皆さんは、こうしたボロい佇まいや手作り感といった特徴に惹かれているようでしたが、湯巡りを趣味とする人間には共通して頽廃美を好む傾向があるのかもしれません。



100円の無人施設ですから、一般的な銭湯に設けられている入浴に便利な設備なんて無し。安普請の室内に浴槽が1つ据えられているばかりでした。でもそこに注がれているお湯が極上そのもの。琥珀色のお湯からは芳しい木材のような香りが漂い、湯船に入るとヌルヌルという表現がふさわしいほど大変滑らかな浴感に包まれるのでした。もちろん完全掛け流し。

私がこの温泉を初めて訪ねたのは今から十年以上前のこと。初回訪問時にはただならぬ佇まいに腰が引け、利用をためらってしまったのですが、勇気を振り絞って中にはいってみたら、そこで入れる温泉の素晴らしさに感動し、以来すっかりファンになってしまいました。

でも、もうこのお風呂には入れません。

固く閉ざされたドアの前に立ちすくみ、想い出に浸りながら感傷的になってしまった私。
もうこの温泉は復活しないのでしょうか。
いまさらですが、とても残念です。


コメント (6)
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