た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

NYへ(初日)

2008年03月19日 | essay
 仕事で仕入れたいものもあって、一週間ほどニューヨークを旅した。マンハッタン島から一歩も出ない旅である。別に強く惹かれるものがあったわけでもない。まあ世界の中心なら一度は見ておこうと思った次第である。

 小さな旅ではあったが、いくつかの思い出が残った。忙殺の日常の復活が眼前に控えているが、折を見て少しずつ書き留めていければと思う。

       ★   ★   ★

 私の海外旅行はこれで三度目。一人旅は二度目。二度とも前日は友人と飲み明かして徹夜である。私が望んだことではない。どうも私の周りには、私一人がバケーションを満喫するなんて許せないと考える友人が多いようだ。

 さすがに身体がすっきりしないので、成田空港でシャワーを浴びる。思い起こせば前回もシンガポール空港でシャワーを浴びた。空港のシャワールームはなかなか好きである。ただシャワーのためだけの極めて簡潔な造りだが、目的がはっきりしていていい。旅の前に身を清める。ある人にとっては、旅の後に身を清める。いずれにせよ、多機能の集積である巨大空港の施設内において、自分もその機能の一部を淡々と稼動させているという満足感がある。

 飛行機の中では卒業旅行の女子学生二人組みと隣り合わせた。ナイアガラの滝を見に行くらしい。それからNYに移動してジャズバーへ。「ジャズってぜんっぜん知らないんですけど、でもニューヨークならジャズって感じ?」「それってWhat'sって感じ」などと随分気楽である。ああ、こういう肩肘張らない旅の楽しみ方もあるのだと少々うらやましく思う。私が肩肘張っているわけではないが、少なくとも寝不足で肩は凝っていた。

 彼女たちとはのち、帰りの空港で偶然再会することになる。

 NYには夜遅くに着く。準備不足が早速功を奏して、歩けど歩けど泊まるつもりの宿が見つからない。あんまり暗いところを歩くと黒人に声をかけられる。どうせ予約もしなかったことだ。持参した冊子にも載っていない安宿を見つけて入る。大体私の旅はいつもこうであるから困る。

 荷物を解くと夜の街へ。アイリッシュパブに二軒ほど入ったが、どちらも恐ろしく賑わっていた。一軒目では私の後ろで数人の男女が声高に合唱を始めた。なるほどここは世界の中心を自負する街だけあってエネルギッシュである。酩酊して宿に帰り着くと、恋の悩みを抱えて旅する日本人と出会う。仕方ないから彼を連れ出して一軒目のパブに再び入る。合唱組はまだ合唱していた。
 同国人の彼と何杯かのビールを挟みながら、恋について語り合った。彼の話を聞くつもりが、いつの間にか私の話を聞いてもらっていたように記憶する。別々の場所で起きた二つの歴史を共有し合い、慰め合い、励まし合う。それはしかし、不夜城NYにとっては欠伸ほどの短い出来事だったに違いない。

(時折つづく)
 
コメント
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