仕事場の隣にある狭い空き地を、冷たい雨がくすんだ色に染めていた。仕事をしながら、私はときどき二階の窓から空き地を眺め下ろす。夏のころは、近所の子供たちが玩具の拳銃で撃ちあっていたり、犬の散歩をする人が立ち止まったりする。しかし朝霜の降りる季節になると、さすがに人気はなくなる。ここ最近の生活の疲れに寂寥とした雨音も手伝って、私は漠然と侘しい気分で眺め下ろしていた。
そこにカラスが飛来してきた。くちばしに何かしら餌をくわえている。
こんな氷雨の中でも鳥は空を飛ぶのか、と少し感動しながら眺めていると、そのカラスは空き地に着陸し、周囲をしきりに伺いながら餌を地面に落した。なるほどここで食事にありつくわけだ。しかし、カラスは私の予想に反して、くちばしで枯れ草を引き抜いては餌の上に掛け始めた。二回、三回。人間の手のように誠に器用に枯れ草をかぶせる。明らかに餌を隠しているのである。
作業が終わると、カラスは再び周囲を伺い、思い切って飛び立っていった。私は茫然として彼のいなくなった空き地を見下ろした。カラスが餌を隠すという行為は聞いたことがない。先程のカラスは、もう少し餌を集めてから、まとめて巣に持って帰るつもりであろうか。それにしても何と手なれた(いや、この場合は「くちばしなれた」と言うべきか)作業であったことか。本能ではできない。完全に意思と思慮を持った生き物のやる姿であった。カラスはそんなに賢いのか。しかし、特に目立ったもののない平坦な空き地の中で、果たしてきちんと餌を隠した場所を覚えておけるのだろうか。
カラスが戻ってくるまで見張っていようと思ったが、仕事に再び心を奪われ、電話の一本を受け取ったころには、カラスのことなどすっかり失念してしまっていた。こういうことではいつまで経ってもシートンにはなれない。
なんにせよ、あ奴らも立派に生きているのは確かである。丁寧に、懸命に。そう思うと、こちらも欠伸(あくび)ばかりしてはおられないようだ。
そこにカラスが飛来してきた。くちばしに何かしら餌をくわえている。
こんな氷雨の中でも鳥は空を飛ぶのか、と少し感動しながら眺めていると、そのカラスは空き地に着陸し、周囲をしきりに伺いながら餌を地面に落した。なるほどここで食事にありつくわけだ。しかし、カラスは私の予想に反して、くちばしで枯れ草を引き抜いては餌の上に掛け始めた。二回、三回。人間の手のように誠に器用に枯れ草をかぶせる。明らかに餌を隠しているのである。
作業が終わると、カラスは再び周囲を伺い、思い切って飛び立っていった。私は茫然として彼のいなくなった空き地を見下ろした。カラスが餌を隠すという行為は聞いたことがない。先程のカラスは、もう少し餌を集めてから、まとめて巣に持って帰るつもりであろうか。それにしても何と手なれた(いや、この場合は「くちばしなれた」と言うべきか)作業であったことか。本能ではできない。完全に意思と思慮を持った生き物のやる姿であった。カラスはそんなに賢いのか。しかし、特に目立ったもののない平坦な空き地の中で、果たしてきちんと餌を隠した場所を覚えておけるのだろうか。
カラスが戻ってくるまで見張っていようと思ったが、仕事に再び心を奪われ、電話の一本を受け取ったころには、カラスのことなどすっかり失念してしまっていた。こういうことではいつまで経ってもシートンにはなれない。
なんにせよ、あ奴らも立派に生きているのは確かである。丁寧に、懸命に。そう思うと、こちらも欠伸(あくび)ばかりしてはおられないようだ。