<死ね>
ヒロコが念じた、その瞬間に、戦車という戦車から激しく火柱が上がった。六台全部が一度に燃え上がったのである。いや正確に言えば、車体が燃えているのではない。中にいる人間が燃えているのだ。業火で地平線は怪しく揺らめいた。砂漠に幾つもの太陽が落ちたかのようであった。間もなく爆音が立て続けに起こった。電気系統か何かに引火したのだろう。炎も煙も、一層激しくなった。もちろん、這ってでも出てくる兵士は一人もいない。皆真っ先に焼け死んだのだ。
あまりにも異様な光景であった。人々は声を上げることすら忘れ、今まさに起こっていることを見つめた。誰もが、自分の目を信じられなかった。
ざわめきが、徐々に人々の間に広がった。歓声を上げる者もいれば、必死に祈る者、ひそひそと仲間内でささやき合う者。彼らの視線は一様にしてヒロコにあった。言葉はなくとも、目の前で繰り広げられている魔力がこの東洋の少女から発せられたことは、そこにいるすべての者が理解した。それほどの強烈なオーラを、今の彼女は放っていた。
燃え盛る車両の中の一台で、地響きを伴うほどの爆発が起こった。砲弾に引火したのだ。また一台。黒煙が上がる。戦車の周りにいた歩兵たちが慌てふためいて逃げて行く。
大空へと絞り出すように、大歓声が沸き起こった。ベドウィンたちは今こそ、勝利を確信した。銃声が鳴り、拳が振り上げられ、人々は歓喜の表情で抱き合った。
ヒロコは一人、立ち尽くしていた。まるで故郷を焼かれた人のような表情で、天高く立ち昇る複数の黒煙をじっと見つめた。これで何人の人を焼き殺したことになるのだろうか。彼女は心の中で数え挙げようとした。だが戦車一台に何名の戦闘員がいたかさえわからない。自分はもう数えきれないほどの人を殺したことになるのだなと、ふと思った。自分に焼かれるのは、どんな気分なのだろう、とも。みんなどんな気分で死んでいくのだろう。
自分に近づいてくる人の気配に気付いた。シャイフ・アブドゥル=ラフマーンである。傍らに背の高い男を連れている。部族内で唯一英語が話せるので、半月前ヒロコが砂上に現れ意識を回復した時も、彼女と族長との通訳を任された男である。
二人はヒロコの前で立ち止まった。
シャイフは胸に手を当て、ヒロコに向ってお辞儀をした。
通訳の男がぎこちない英語で要件を伝えた。ヒロコは辛うじてその意味を理解した。
『偉大なる同志ヒロコ。シャイフ・アブドゥル=ラフマーンが、あなたを宴に招待したいと言っています』
(つづく)