た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

8月9日

2009年08月09日 | essay
 ぶらりと歩いて近所の銭湯に向う。
 近道をしようと通ったことのない路地に迷い込む。見上げると空に蜘蛛の巣がかかって死んだ熊蝉が乗っていた。蜘蛛の巣を見上げるなんて自分は大変歩いているなあと妙なところで感心する。何しろ普段車に乗っていては、蜘蛛の巣など見上げようにも見上げられないからだ。小さい橋を渡り、角を曲がると猫の臭いがした。その先では二階からピアノを練習している音が聞こえた。あれはノクターンである。撫でるように音を出す箇所で満足がいかないらしく、何度も同じフレーズを繰り返す。
 一緒に歩いていた子どもが、あじさいかなあと指さして言う。見れば、傾いだフェンスの根元から大きな葉っぱが出ている。おそらく雑草だろう。しかしひょっとしてあじさいかもしれない。来年の五月になればわかる。しかしそんな些細なことを、来年の五月まで覚えていることはなかろう。何だってそんなものである。

 銭湯は湯が熱くて気持ちよかった。

 いつかは忘れる日曜日である。
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