箱を集め続けている男に出会った。
「私ね、箱を見ているだけで安心するんですよ」
「箱です」
「ははははは。変でしょ。どんな箱でもいいんです。ええ。箱でありさえすれば───でも蓋がなくっちゃいけません。蓋がないのは箱じゃない。私的にはね。蓋が閉じて中が見えなくなって初めて、私の望む箱なんです。とても安心するんですよ。自分の隠れ家を見つけたときの喜びと申しましょうかねえ。え? そりゃごもっとも。ほんとに隠れるわけにはいきません。だいたい、そんな大きな箱はいらない。小さくていいんです。え? 手の平サイズでも十分ですよ。手の平サイズで十分。マッチ箱でもいいんだけど、あれは中にマッチがぎっしり入っていると相場が決まってますからねえ。そう。何が入っているかわからないくらいがいいんです。外から見えない空間が中にある。暗闇です。その暗闇を想像するんです。ははは。変でしょ。それだけで安心するんです。ほんとに。心が落ち着くんです。そういう箱の外側を手で撫ぜるとね、とても幸せな気分になるんです。ほら、こんな風に撫ぜるんです」
「私ね、箱を見ているだけで安心するんですよ」
「箱です」
「ははははは。変でしょ。どんな箱でもいいんです。ええ。箱でありさえすれば───でも蓋がなくっちゃいけません。蓋がないのは箱じゃない。私的にはね。蓋が閉じて中が見えなくなって初めて、私の望む箱なんです。とても安心するんですよ。自分の隠れ家を見つけたときの喜びと申しましょうかねえ。え? そりゃごもっとも。ほんとに隠れるわけにはいきません。だいたい、そんな大きな箱はいらない。小さくていいんです。え? 手の平サイズでも十分ですよ。手の平サイズで十分。マッチ箱でもいいんだけど、あれは中にマッチがぎっしり入っていると相場が決まってますからねえ。そう。何が入っているかわからないくらいがいいんです。外から見えない空間が中にある。暗闇です。その暗闇を想像するんです。ははは。変でしょ。それだけで安心するんです。ほんとに。心が落ち着くんです。そういう箱の外側を手で撫ぜるとね、とても幸せな気分になるんです。ほら、こんな風に撫ぜるんです」
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