──どうして電話に出てくれないの?
コンビニエンスストアの明るすぎる照明を背に浴びて、女はうずくまった。
夜の暗幕を破って、車が何台も疾走する。そのたびに女の鼻先に粉塵が舞う。
──そろそろ帰らなきゃさすがにやばいな。
コンビニエンスストアの自動ドアが開いても、少年はすぐに歩き出そうとしなかった。
菓子パンとジュースの入ったビニル袋を自分の膝にぶつけ、彼はため息をつく。
「携帯が落ちましたよ」
しばらくの躊躇のあと、少年は思い切って女に声をかけた。こんなに背を丸めて、この人は気分が悪いのかもしれない。
知ってるわよ。ほっとていてよ。そう言い返してやろうかと顔を上げた女は、少年の青白い顔を見て口をつぐんだ。
泣きはらした真っ赤な目が見上げ、物憂い孤独の目が見下ろした。
道路に穴を穿つような音を立てて、大型トラックが二人の前を走り去っていった。
「ありがとう」
ここから二人のドラマが始まると良いのだが、女はまだ彼から電話がかかってくるかも知れないという一抹の望みを捨て切れていなかったし、少年は何しろ公開模試が明後日に迫っていて家では母親が恐い顔をして待っていたので、二人は無言のままで見詰め合ってから互いに顔を背けてしまった。少年は自転車に乗って暗闇に帰っていった。
女はまだしばらく、コンビニエンスストアの明かりに丸い背中を暖められていた。
コンビニエンスストアの明るすぎる照明を背に浴びて、女はうずくまった。
夜の暗幕を破って、車が何台も疾走する。そのたびに女の鼻先に粉塵が舞う。
──そろそろ帰らなきゃさすがにやばいな。
コンビニエンスストアの自動ドアが開いても、少年はすぐに歩き出そうとしなかった。
菓子パンとジュースの入ったビニル袋を自分の膝にぶつけ、彼はため息をつく。
「携帯が落ちましたよ」
しばらくの躊躇のあと、少年は思い切って女に声をかけた。こんなに背を丸めて、この人は気分が悪いのかもしれない。
知ってるわよ。ほっとていてよ。そう言い返してやろうかと顔を上げた女は、少年の青白い顔を見て口をつぐんだ。
泣きはらした真っ赤な目が見上げ、物憂い孤独の目が見下ろした。
道路に穴を穿つような音を立てて、大型トラックが二人の前を走り去っていった。
「ありがとう」
ここから二人のドラマが始まると良いのだが、女はまだ彼から電話がかかってくるかも知れないという一抹の望みを捨て切れていなかったし、少年は何しろ公開模試が明後日に迫っていて家では母親が恐い顔をして待っていたので、二人は無言のままで見詰め合ってから互いに顔を背けてしまった。少年は自転車に乗って暗闇に帰っていった。
女はまだしばらく、コンビニエンスストアの明かりに丸い背中を暖められていた。
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