た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

佐渡へ渡る!(その5)

2024年11月01日 | 紀行文

 そこは開放感に溢れていた。芝に覆われた広大な空き地に足を踏み入れれば、いつもより大きな空が出迎えてくれる。右手には廃墟となった浮遊選鉱場が見える。かつては、金を浮かせて採集する巨大な施設だったらしいが、今はその形骸を残したまま緑に覆われている。文明が滅びた後に自然に占拠されたようでもあるし、自然が文明の傷を優しく包んで癒してくれているようでもある。

 左手には小川が通っており、その向こうには喫茶店。テラス席に男二人が腰かけて談笑している。一日中でものんびりできそうな雰囲気だ。もっと奥、切り立った山の斜面には円形競技場のような、面白い形の廃墟が、これも緑を被って佇んでいる。

 とにかく緑が多い。天空の城ラピュタのような、と形容されたりしている。私はその映画をしっかりと観ていないが、多年にわたる戦闘のための城が朽ち、草花に覆われてむしろ以前より美しく変容した場面を断片的に覚えている。確かに、美しい。というより、気持ちいい。両手両足を思いっきり広げたくなる。妻にカメラを向けると、バレエダンサーのようなポーズを取って見せた。その技量はともかく、気持ちは伝わった。犬にカメラを向けると、普通だった。犬にはこのスケールの大きさは伝わらないかもしれない。

 説明書きを読むと、明治に建てられたものゆえ、江戸時代の遺物である金山を中心とした世界遺産からは外されたとか。

 しかしここの方が、ずっと良かった。

 

 

 

 幾度も振り返りながら、再び車へ。

(つづく)


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