た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

残暑一人旅②

2015年08月23日 | essay
 大鹿村に行きたかったのは、かの有名な大鹿歌舞伎を観るためではない。

 そもそもこの季節に歌舞伎はない。

 それよりも年に二度、歌舞伎をやるほどのずくのある村を、その平生の姿でどんな集落なのかちょっと覗いてみたかったのだ(「ずく」とはこの地方の方言で、「根性」に近い意味である)。ついでに言えば、仕事場の壁に掲げてある長野県全図を、今度の休日どうしようかと眺めていたら、鉄道から山一つ隔たったこの場所がとても魅力的に目に映ったのだ。

 最寄り駅の伊那大島に着いたのが昼前。駅近くに一軒あった食堂に入り、作戦を練る。店主を味方につけるべく瓶ビールを注文し、ちびちびやりながら情報を引き出したところ、何とお盆明けで主要な温泉宿はだいたい休み。ただ幸運なことに、バスは南アルプスへ登る人たちが利用するので、事前情報で仕入れたよりも何便か余分にあった。まあ取りあえず行ってみようと駅前発のバスに乗る。揺られること一時間、着いた場所は、まさに祭りの後の観のある、どこまでも、どこまでも静かな村であった。

 
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