9/15 リハビリしようよ
昼食にギリギリセーフで間に合った。
父は、もう勢いよく食べにかかっていた。
「お父さ~ん、こんにちは!」
…といって部屋に入る前に、とりあえず深呼吸して、気分を介護モードに切り替える。
でも、父と会ったとたん、いつも意外とリラックスして長い時間を過ごせる。
元気になった父の食事の介助はもう殆ど必要なくなった。
食べにくそうな大きなお肉や、フルーツを切ってあげる程度。
それよりも、排便や、体の痒さや、筋肉がなくなって同じ姿勢でいると骨が痛くなったりすることに気をつけてあげることや、
何より、話し相手をして、脳を活性化してもらうこと。
なるべく外の世界との繋がりが切れてしまわないように。
「お父さん、もう看護師さんと仲直りしたんな? 喧嘩しよらんのな?」
しよらん…とはいうものの、父は、「入院当初は、親切で優しかった看護師さんも、
だんだん手荒になって、口調もきつくなってきた」と文句を言っていた。
そりゃ、お父さんも慣れてきて、だんだん我儘を言うようになってきたからだろー…と思いつつ、
「そうなん。みんな人間やから、いやなことがあったり、ストレス溜まったりすると、
キツくなったり、ツラくあたったりするんやわ。
イヤやね~そんなん。みんなお父さんが優しいから、甘えとるんやろう。」
とはいいつつも、この日の父は穏やかだった。
お昼は鶏肉のソテーだったので、差し入れした「コブサラダ・ドレッシング」をかけてあげようと冷蔵庫を開けたら、撤去されていた。
ああ… これもダメか。マスタード系でスパイシーだからな、、、
ベンチチェアには、どなたかのお見舞いが置いてあった。
果物と、ケーキやプリンなどのセットだった。
「お父さん、今日誰かお見舞いに来てくれたん? ケーキがあるよ。あとで一緒に食べよう。」
誰が来てくれたのと聞いても、父は「アンタに言ってもわからん」と…
でも、そのうち父はヒロコさんにTELしてたけど、そのときには誰が来てくれたのか忘れているようだった。
「たぶん○○やと思う…」と、、、
私が昼付き添いにきたことも、夜には忘れているらしいし。
ヒロコさんにかけたTELを私に変わったら、ヒロコさんは「お見舞いのお菓子、TAKAMIさんが持って帰って。」としきりに言う。
いっぱいいただいても、食べきれないから…というのと、病院食以外はあまり食べさせたくないという気持ちがあい混じっているのではないか…という気がした。
でも、もう食べちゃったよ、ケーキ。
脂肪分も多いし、あまり肝臓にはよくないのかな…
美味しいといって、喜んで食べたんだけどなーーー
ふと、私の祖母の認知のことを思い出した。
祖母が亡くなったのは、もう20年以上前なんだけど、、
あるとき、祖母も含め、家族みんなでカラオケにいったことがあった。
祖母にとって、最初で最後のカラオケ体験。
私たちは、祖母のために、文部省唱歌みたいなのを次々に歌って、祖母も一緒に歌ったり、ちょっと戸惑いながらも楽しそうだった。
…でも、翌日になったら、祖母はカラオケに行ったことはすっかり忘れてしまっていた。
どんなに楽しくても、美味しいものを食べても、次の瞬間に忘れてしまうなら、それは無駄なことなんだろうか?
長生きのために、病院食だけを食べ続けるほうがいいのだろうか。
どう思いますか、みなさま。
これは、人それぞれ、相手に対する愛の質や、人生観、世界観、死生観などの、人間のとても根幹的な問題だと思う。
父は、毎日もりもり食べるおかげで、顔に艶も出て、顎のあたりがちょっとふっくらしてきたような気がする。
「お父さん、顎にお肉がついてきよるよ~。
こんなとこにお肉をつけられるる位なら、足腰の筋肉をつけようよ。
リハビリしようよ、お父さん。」
少しずつ、足を動かしたり、寝返りの訓練をしたり、それがお父さんの仕事だよ…とは言わなかったけど、
私は目の前にいる元気な父が、癌の末期で、死を待つだけの人とは全然思えないのだ。
父の生命力は、ホントにがん細胞を征圧しているのではないかとさえ感じる。
でも、ベッドに寝たきりが半年以上も続いて、失くしてしまった筋肉は、リハビリで取り戻すしかないのだ。
高齢だから、若い人の何倍も時間がかかる、けど、不可能ではないと思う。
頑張ろうよ、お父さん。
「もう、元には戻れんかもしれんのー」と父は言うのだけど、
「そうやって諦めたら、そこで終わりやで。」
父の入院している病棟は、一般病棟と違って、長期入院を受け入れる代りに、積極的治療は施さないと聞いている。
詳しいことはわからないけれど、「リハビリをしましょう」なんて、病院側から提案することなんかないのかも。
この日、私は父と、いろいろグチグチの話をした。
免許証の更新ハガキが届いていないんですけど…と免許センターにTELしたら、まず警察署に確認にいけといわれたのよヽ(`Δ´)ノ
電話の問い合わせには応じられないので、直接署にいけっちゅーのよ!
なんじゃその対応は! いばりくさっとる!!
ってことで、意気投合したり…
なんか、そーいう病院の外の世界のことも話題にしたいんだけど、なにしろ共通の話題がなくて、
どうしても昔話とかが多くなってしまう。
グチグチでも悪口でも、ぼんやりしてるよりはマシだ。
父の頭の中は、会うごとに少しずつ退化していっているように思う。
そして、こちらもそれに慣れてくるってもんだ。
体の見かけは元気な父に、頭が退化してほしくない。
今暫く病気の進行が留まっているのなら、リハビリ、がんばろうよ、立てるかもしれないよ。
…と思っているのは私だけのようなんだよな、、、、