経済なんでも研究会

激動する経済を斬新な視点で斬るブログ。学生さんの就職準備に最適、若手の営業マンが読めば、周囲の人と差が付きます。

新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-12-09 09:23:53 | SF
第7章 終 局

≪62≫ 日本 = 2090年ごろになると、日本経済は完全に再生した。輸出が増加し、国内の消費も順調に伸び続けている。企業の利益は拡大し、株価は上昇した。なによりも街を歩く人が元気を取り戻し、世の中がひところより格段に明るくなっている。

ぼくが地球を飛び出したのは、ちょうど50年前。あのころが、いちばんひどかった。異常な寒冷化が収まったあとも日本は回復が遅く、世界でも二流国に没落してしまう。エネルギー価格の暴騰と人手不足のために、経済が成長力を失ってしまったからだ。

その救世主となったのが、わがダーストニウム発電路床である。この普及で電力自給率は70%を超え、原油の輸入量は5分の1に激減した。電力料金も値下がりしたため企業のコストが大幅に下がり、輸出競争力は急速に回復した。家庭も電力やガス料金が値下がりし、コメやパンなどの主食はタダ同然の価格で入手できるようになった。人々はおカネを他の消費に振り向けられるようになっている。

ガードマン型ロボットと農水産用のロボットを大量生産した結果、その分野での人手がほとんど不要になった。その人たちを建設や介護の仕事に誘導したので、全体としての人手不足はかなり解消した。こうして日本経済は、再び成長力を取り戻した。

日本に対する世界の信頼も、驚くほど向上した。なにしろ“神の粉”を、安価で供給してくれる。中東の産油国でさえも、太陽光発電を基盤として国家の発展計画を作成するようになった。国連の場などでも、日本の発言力は見違えるほど強くなった。

そんな状況を眺めながら、ぼくは山梨の工場敷地内に閉じ籠っている。外へ出て人に会うと、なんだかウソ発見器にかけられているようで苦しくなってしまうからだ。ガードマン型ロボットと番犬に守られて、ここには戦車であろうがドローンであろうが入ってはこられない。

マーヤの方はときどき出かけるが、マスコミに聞かれると「私は専業主婦。主人のやっていることは全く知りません」で切り抜けているらしい。彼女はどこから見ても、おおらかで楽しそうな中年の主婦に見える。

ひまなので、最近は過去の出来事をパソコンに入れ始めた。もちろん公表は出来ないが、こうしておけば200年後の子孫がみて参考になるかもしれないと考えたからである。

                          (続きは来週日曜日)

新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-12-02 07:45:07 | SF
第7章 終 局

≪61≫ 世界 = けさのテレビ・ニュースは、中東で起きたテロと報復爆撃の様子を生々しく伝えていた。地球の異常な寒冷化で人類の存続が危ぶまれたとき、世界各国は一致して対応策の構築に努力した。だが脅威が去ると、状況は元へ後戻り。宗教的な色彩の強い地域的な戦争が、しばしば勃発。米中ロの3大強国は残り少なくなった資源の取り合いに狂奔。みな自国第一主義に走って、リーダーの風格を有する国は全く姿を消した。

――ねえ、マーヤ。地球人はほんとに進歩しないね。こんなテレビ画面をみていると、ぼくはダーストン国が羨ましくなるよ。たしかウラノス博士がUFOの秘密を話してくれたとき「地球人はまだ野蛮で、戦争をしている」と言ったね。だからダーストン星にバリアを張って、暗くて冷たい星に見せていると説明してくれたときだ。
マーヤは無言だった。地球人の悪口は言いたくないのだろう。

ぼくに言わせれば、いまの地球は経済の面でも悪い方向に進んでいる。もう何十年も前から、日本を含む先進諸国は景気を維持するために、膨大なおカネを放出し続けている。その結果、株式や商品あるいは為替や仮想通貨などに大量の投機マネーが集中。いわゆるマネー経済が、急速に拡大した。

このマネー経済分野で儲けるのは、ほんの一握りの人たちだ。大多数の国民は汗水流して働いても、なかなか生活がよくならない。このため貧富の差は拡大するばかり。その不満は政治に向けられる。ところが選挙になれば、これら庶民の票がなければ勝てない。そこで政府・与党は、景気対策とか福祉対策でまたカネをばらまく。

すると投機資金がさらに増えて、働かない人たちがまた儲かる。庶民の不満がさらに嵩じると、政治家はポピュリズムに走る。こんな悪循環が止まらなくなっていると思う。

月日の流れは、宇宙船のように速い。気が付いてみると、22世紀も間もなくだ。ぼくが地球を飛び立ってから、もう50年近くも経ってしまった。こんな調子で、200年後の地球はどんな星になっているのか。思わずため息が出る。

そんなぼくの気持ちを察知したマーヤが、上を向いて言った。
「ダーストン国も200年前は、大した技術を持っていませんでした。地球人も頑張るでしょう。きっと、よくなりますよ。私たちも前を向いて、物事を明るく見ましょうよ」

                          (続きは来週日曜日)

新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-11-25 08:09:09 | SF
第6章 ニッポン : 2070年代

≪60≫ SEX = 「医療技術がダーストン並みに向上しないと、医療や介護、教育や家事型のロボットは造れないわけなのね」と、マーヤがつぶやく。

――そう。いまの機械的ロボットでも補助的な役割は十分に果たすけれど、人間の代わりにはならない。200年後にダーストン並みのロボットが出来るかどうか。それは子孫に任せるしかないだろう。

「でも貴方の気持ちの奥底には、私のような人間的ロボットの普及には疑問があるんでしょう。ダーストンにいたころから、私にはそんな感じがしていました」と、マーヤはなかなか痛いところを突いてくる。

――うん、確かに。いちばんの問題は、君のように細かいところまで気が付いて、何でもやってくれる。若い男性の多くは、いろいろ気を遣わないと泣いたりわめいたりする人間の奥さんより、ロボットとの結婚を選ぶかもしれない。だいいち病気にならないから、年をとっても夫が妻を介護する心配もない。

ダーストン国では、すでにその兆候が表われていたじゃないか。すると子どもが産まれない。人間は滅びて行くかもしれないと、ぼくはそれだけを心配しているんだ。

「私も子どもは産めませんからね。それにセックスの面では、人間の女性に敵わない」

――大昔は、結婚といえば男性と女性の間に限られていた。血統を保つために、1人の男性が複数の女性と結婚した時代もあった。それが近年では、男性同士あるいは女性同士が結ばれることも珍しくなくなっている。ダーストン国のように、人間とロボットが結婚することは自然の成り行きだと思うよ。
ぼくは君が大好きだし、とても気に入っている。こんなに幸せな男はいないと思っていることは、君だってよく解っているだろう。

2人の会話は、そこで途切れた。マーヤは目をつぶっている。可愛いマーヤ。
たしかに、マーヤは人間的な身体をしている。しなやかで弾力性のある肢体。胸にも形のいい大きめの丘が2つ。てっぺんには赤いつまみものっている。でも彼女には、下の谷間がない。

だから正常位や後背位はムリ。しかし、いわゆる<69>の形になればいい。ぼくはそれで十分に満足できる。

                             (続きは来週日曜日)

新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-11-18 07:52:26 | SF
第6章 ニッポン : 2070年代

≪59≫ 迷い = 山梨県の工場敷地内に小さな家を建て、近ごろはそこに引きこもっている。都内にいるとマスコミの攻撃に曝され、疲れてしまうからだ。いつも「あの“神の粉”は、誰がどこで造っているのか」と「貴方は宇宙で5年間なにをしていたのか」という質問ばかり。「お答え出来ません」「記憶がありません」と答える虚しさにも、耐えられなくなっていた。

当然、マーヤもここに住んでいる。マーヤがいないと、ぼくは食事にもコトを欠く。だが彼女は、ときどき東京へ出かける。ダーストニウムの発送などの仕事をこなし、食料品などを買い込んでくるらしい。自動車の運転も、慣れたものだ。

東京と違って、山梨の夜空はとてもきれいだ。その星空を見ていると、どうしてもダーストン星のことを思い出してしまう。みんな元気なのだろうか。マーヤがそっと来て、隣に座る。

――ねえ、マーヤ。君はダーストン星に帰りたいと思わないのかい?
「ええ、思いませんよ。私は人間と違って、すぐに気持ちを切り替えられますから」

――それにしても、いま考えるとダーストンという国はすごかったな。いくつも驚かされたが、特に病気でもケガでも完全に治してしまうあの医療技術は、大したもんだ。ぼくの命も助けられたし、君のように人間の思考能力と感情を持ったロボットも、あの完成された医療技術があってこそ生まれたわけだ。
やっぱりブルトン院長のような人が多くの病院にいて、ああいう手品のような手術ができるんだね。

日本でもiPS細胞の研究が進み、ガンや脳疾患の治癒率が急速に高まっている。そのせいで平均寿命も女性は90歳を超え、男性は85歳に接近した。もう100-200年もすると、ダーストン並みに完全治癒の医療体制が整うのだろうか。
だが、そうなれば地球も過剰人口の問題に直面するだろう。そのときには、やはり「寿命を人為的に100歳に決める」ような制度を導入するのかしら。それがいいことなのかどうか、ぼくはいまだに迷っていて結論を出せずにいる。

マーヤが突然、口を出した。「ブルトン院長の奥さんが言ったこと、覚えてますか」
――うん。彼女は『幼い子どもを残して事故で死ぬ親がいるような世界と、100歳まで安全に生きられる世界。どちらが幸せか』と言ったんだ。ぼくも幼いときに両親を事故でなくしたから、あの言葉は胸に突き刺さったよ。それでも、どちらの世界が好ましいか決断できない。

                                 (続きは来週日曜日)

新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-11-11 08:04:45 | SF
第6章 ニッポン : 2070年代

≪58≫ 自給率 = 「スーパーに行けば、肉でも野菜でも店頭にあふれかえっているじゃない。それなのに何で農水産用ロボットを造るのかしら」と、マーヤが真剣な顔をして聞いてきた。

――ぼくの若いころ、日本の食糧自給率は38%ぐらいだった。それが、いまでは30%前後まで落ちている。若い人が農業を敬遠し、多くの働き手が高齢化した結果だ。この傾向は今後もずっと続き、自給率はもっと下がって行く。

要するに日本は、いま必要な食糧の70%を外国から輸入している。それでスーパーの棚も、いっぱいになっているわけだ。ところが世界の人口は加速度的に増えている。すでに110億人を超え、22世紀になると150億人に達することは確実だよ。

「すると世界中で食糧が不足する。日本が輸入しようとしても、モノがなくなってしまう。それを貴方は心配しているわけなのね」
――その通りだよ。だから農水産用のロボットを量産して、ダーストン国のようにロボットが稲や小麦を育て、おにぎりやうどんまで作ってしまう。そして近い将来、自給率が75%まで上がることを目標にする。それが日本を素晴らしい国にするための3つ目の条件になると、ぼくは確信しているんだ。

「ロボットが農水産物を造れば、食品のコストは電気代ぐらいになってしまうでしょうね。スーパーに並ぶ商品も、すごく安くなるはずだわ」
――いや、このシステムが完成したら、コメ・うどん・パンなどは全部タダで国民に配るんだ。個人の家でも飲食店でも、注文すれば無料でドローンが届けてくれるようにしたい。

ダーストン国では食糧だけでなく、生活必需品はすべて無料で入手できた。そこまではムリとしても、主食やよく食べる魚や野菜は無料化したいものだ。そうすれば若い人たちも安心して子どもを産むようになり、少子化も改善されるに違いない。

またロボットが普及して行くと、それだけ人間の職が奪われる。でも食料費がタダ同然になれば、社会不安が起きることもない。食品の生産や配送に従事してきた人たちは、時間をかけてゆっくり老人介護など他の職業に移って行けばいい。

「なんだか貴方が偉い政治家に見えてきたわ。でも、いまの政治家たちは、食糧不足を心配していないのかしら」
――心配している人はいるけれども、どうやったらいいのか手段が見付からないんだ。優秀なロボットの量産なんかできないからね。僕らには、それが出来る。ロボットさまさまだよ。

                           (続きは来週日曜日)

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