経済なんでも研究会

激動する経済を斬新な視点で斬るブログ。学生さんの就職準備に最適、若手の営業マンが読めば、周囲の人と差が付きます。

サタデー自習室 -- 水の 経済学 ㉕

2017-09-23 07:54:32 | 
◇ なぜ新成長戦略の目玉にしないのか = 世界の水ビジネスは25年に、経済産業省の予測では87兆円に拡大する。国連の予測では111兆円という大きさになる。ビジネス規模という点から比較すると、25兆円といわれる半導体産業よりはるかに大きい。自動車産業は約300兆円だから、優にその3分の1を超す。しかも新興国の経済発展と人口の増加からみると、実際はもっと拡大するかもしれない。

海水や汚水の浄化に使われる逆浸透膜の製造で、日本は世界最高の技術を保有している。また上下水道の管理・運営では、日本の地方自治体が長い経験を持っている。にもかかわらず世界の水ビジネス市場における日本の占有率は、わずか0.4%にすぎない。その大きな原因が、政府・メーカー・商社・自治体間の連携が必ずしもうまく行っていないことにあることは明らかだ。

国連の分析によると、25年の市場規模111兆円の内訳は、上下水道の管理・運営が100兆円、建設が10兆円、部品は1兆円となっている。さらに新興国の場合は、建設から管理・運営までを一括して発注するケースがほとんどだ。いまの日本の体制では一括受注ができないから、契約はどうしても小口ばかりになってしまう。

安倍内閣はいま、新成長戦略の発掘に腐心している。その目はITやロボットに向きがちだ。それも悪くはないが、なぜ水ビジネスをもっと重視しないのだろう。シンガポールは所管官庁を作って成功したが、日本も所管大臣ぐらい置いていい。すでに世界市場では周回遅れとなっている日本だが、いま体制を立て直さないと水は永久に日本の手からこぼれてしまう。

                                       (終わり)

      ≪22日の日経平均 = 下げ -51.03円≫

      【今週の日経平均予想 = 3勝1敗】   



サタデー自習室 -- 水の 経済学 ㉔

2017-09-16 07:48:28 | 
◇ 都市沈没の危機 = 東南アジア諸国の大都市が、地盤の激しい沈下に悩んでいる。インドネシアのジャカルタ、フィリピンのマニラ、ベトナムのホーチミンなど。ジャカルタの場合は、すでに市内の4割に当たる面積が海水面以下に。さらに今後10年間のうちに、180センチの地盤沈下が起こると推定されている。いずれも地下水の過剰な汲み上げが原因だ。

人口の急増も一因だが、工業化が進んで工業用水を汲み上げすぎたことが最大の要因。首都沈没の危機を防ぐためには、汲み上げを制限するしかない。その場合、不足する工業用水を補う方法は、下水を浄化して工場に供給すること。また使用した工場用水を浄化して再利用するしかない。

地下水を農業用に汲み上げた弊害も、各所で出ている。特にひどいのは、中国の黄河中流域とアメリカの中西部。黄河では大河の水が干上がる事態も生じている。アメリカでも最大の農業地帯で、地下水の枯渇が真剣に心配され始めた。これらの対策も、下水の再活用しかない。

こうした地下水の枯渇は、予測を上回る勢いで進行している。したがって国連や経済産業省の推計値よりも水不足はさらに増大し、水ビジネスの規模も拡大する可能性が大きい。オーストラリアでも地下水が不足し始め、日本へ石炭や鉄鉱石を運んだ輸送船が、日本の下水を浄化した水を積み込んで帰る時代になっているのだ。

                        (続きは来週サタデー)

      ≪15日の日経平均 = 上げ +102.06円≫

      【今週の日経平均予想 = 3勝2敗】    


サタデー自習室 -- 水の 経済学 ㉓

2017-09-09 07:38:35 | 
◇ やる気が見えない経済産業省 = 政府は10年5月に閣議決定した新成長戦略のなかで「水インフラの強化」を挙げている。これを受けて経済産業省は、オール・ジャパン体制の構築を目指して「メガトン計画」を立ち上げた。逆浸透膜やプラント・メーカー18社と東大など11の大学を集め、日量100万トンの海水淡水化プラントを建設することが目的だった。国も34億円の補助金を支出している。

また経産省は大手証券会社や国際協力銀行などに働きかけ、規模1000億円の水ビジネス・ファンドの設立も計画した。ところが、これらの計画は雲散霧消している。上水道を所管する厚生労働省や下水道を所管する国土交通省などとの協力がうまくいかなかったためとも言われるが、真相は不明だ。

その経産省はことし3月「水ビジネスの今後の海外展開の方向性」と題する文書を発表した。これを読むと、政府が主導する水ビジネス体制の強化は、全く進展していないことが判る。しかも、この文書では「日本の水関連企業等の世界市場占有率はことし3月時点で0.4%、そのプレゼンスは極めて低い状況にある」と現状判断しているのだから、どうしようもない。

日本の逆浸透膜メーカーや水プラント・メーカーは非常に高い技術力を持ち、地方自治体は上下水道の管理・運用に長い経験を積んでいる。にもかかわらず、これらが一体化されないため、海外市場で大口の受注ができない。それを取りまとめるのが政府の役割だと思うが、現状はこのていたらくだ。

      ≪8日の日経平均 = 下げ -121.70円≫

      【今週の日経平均予想 = 5勝0敗】   

サタデー自習室 -- 水の 経済学 ㉒

2017-09-02 06:54:56 | 
◇ 地方自治体の限界 = 日本の上下水道は、そのほとんどが地方自治体によって管理・運営されている。このため多くの自治体が、水道事業に関する豊富な経験を持っている。たとえば東京都の漏水率はアジア諸国の10分の1。料金の徴収率は100%に近い。こうした貴重なノウハウを海外に売り込めないか、こう考えている自治体は少なくない。

その東京都は10年に第3セクターの東京水道サービスを設立。ベトナム・ハノイで大型浄水場を建設する事業に参画した。また横浜市や北九州市なども、主として東南アジア諸国での事業に手を出している。だが自治体は上下水道の管理・運営能力には優れているが、インフラや部品に関する技術は個々のメーカーが握っている。このため単独での進出は難しい。

しかし自治体の職員は地方公務員であるため、民間企業には派遣できない。打開策として第3セクターを作ったりしているが、限界も多い。というのも総じて資金不足だからだ。多くの自治体は、国内の水道事業で多額の債務を抱えている。そのうえ海外事業で失敗はできないから、多額の投資には二の足を踏んでしまう。

もっと重大な限界もある.。国内の上下水道は、戦後から高度成長期にかけて整備された。その設備の大半が、間もなく老朽化で更新の時期を迎える。全国で1350もある水道事業者は、すでに合計8兆円の累積債務を負っている。その資金調達をどうするのか。海外よりも国内の本業に全力を尽くせという声も強いことは確かだ。

                       (続きは来週サタデー)

      ≪1日の日経平均 = 上げ +45.23円≫

      【今週の日経平均予想 = 3勝2敗】  

サタデー自習室 -- 水の 経済学 ㉑

2017-08-26 07:59:11 | 
◇ 出遅れた日本勢は苦戦中 = 水メジャーと呼ばれるフランスのヴェオリア社などは古くから世界各国に進出、00年には中国市場にも参入した。その後の数年間で、イギリスやポルトガル、シンガポールや韓国などが一斉に追いかける。日本が本格的に海外進出したのは10年。この遅れのために、いま日本の企業は悪戦苦闘している。

後発で実績がないから、各国の入札にもなかなか参加できない。そこで実績のある海外企業との合弁事業、あるいは海外企業を買収する方法をとるしかない。たとえば合弁事業では、日立が10年にモルディブ水道会社の株式を20%取得。また三菱商事が15年にカタール財団と合弁で、海水淡水化プラントの建設を受注したなどの例がある。

一方、企業買収では東芝が14年に、インド国内の水処理会社株式を80%取得。また丸紅が10年にチリ第3位の水道事業会社を買収した。三菱商事も同年、産業革新機構などと共同でオーストラリアの現地会社を買収した。このほか水プラント・メーカーや総合商社が、この分野ではかなり積極的に動いている。

ただ水プラントの建設から上下水道の管理・運営までを行う大型プロジェクトの一括受注には、なかなか手が届かない。日本側に一括受注する体制が整っていないからである。この結果、事業規模はみなやや小ぶり。1社あたり何人分の水を供給しているかでみると、メジャーの仏ヴェオリア社やスエズ社は各1億5000万人程度。日本の企業は、まだ1000万人を超えたところがない。

                   (続きは来週サタデー)

      ≪25日の日経平均 = 上げ +98.84円≫

      【今週の日経平均予想 = 3勝2敗】   



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