第3章 経 済 が な い 世 界
≪30≫ 貧富の概念なし = ぼくの部屋が、きょうは珍しく華やかな社交場になった。中央に長いテーブルが置かれ、卓上にはきれいな花とケーキや飲み物が。いろいろな色のローブを身にまとった女性ばかりが、7人も座っておしゃべりしている。マーヤの発案で、あのショッピー館長とガーシュおばあちゃんが、近所の女性たちを招集してくれたのだ。
ガーシュおばあちゃんが立ち上がると、おしゃべりはピタリと止んだ。とても97歳とは思えない立ち居振る舞い。みんなから尊敬されている様子が、それだけで感じられる。
「この地球から来た若い男性は、ダーストン国の人々の生活にとても興味を持っていらっしゃいます。きょうはみなさんの生活意識について、なんでも正直に話してあげてください」
そこからはショッピー館長が司会役に回る。ぼくの方を向いて「どうぞ質問を」と言うので、ちょっと緊張してしまった。立ち上がってお礼を言い、なぜダーストン星に来たのかの経緯を簡単に説明した。
――なんでもタダで手に入れることが出来、働かなくても済むようになって、みなさんは「他人よりもいい生活をしたい」という気持ち、言い換えると虚栄心といった感情はお持ちなのでしょうか。
水色のローブを着た40歳ぐらいの女性が手を挙げた。ショッピー館長が「この方はお子さんが2人、ボランティアで図書館の管理をしています」と説明してくれた。名前はややこしいので、仮にAさんとしておこう。
Aさん「虚栄心がないと言ったらウソになるでしょう。たとえば顔をもう少し細面てにしたいとか、ショッピー館長のような光るローブが欲しいとか、もう少し大きい家に住みたいとか。でも整形手術を受ければ、顔は替えられる。銀色のローブも発注すれば、すぐに届く。家だって手に入る。だから欲を出せばキリがないから、実行しないだけ。そういう意味では、強い虚栄心はありませんね。みなさん、どうですか」
残りの女性たちが、一斉にうなずいた。ぼくも判ったような気がしたが、どうもすっきりしない。そこで次の質問。
――では劣等感もないのでしょうか。
ピンクのBさんが答えてくれた。50歳ぐらい。子どもはなく、特に仕事はしていないという。
「他人のことを羨ましいと感じることはありますよ。ただ、その人と同じレベルにまで生活水準を上げようと思えば、すぐにできます。ですから劣等感というほどのものはありません。とにかく、この国ではおカネ持ちと貧乏人の区別はつきませんから」
――すると貧富の差は全くない?
「貧富の差どころか、貧乏とか富裕とかいう考え方が成り立たないのです」
(続きは来週日曜日)
≪30≫ 貧富の概念なし = ぼくの部屋が、きょうは珍しく華やかな社交場になった。中央に長いテーブルが置かれ、卓上にはきれいな花とケーキや飲み物が。いろいろな色のローブを身にまとった女性ばかりが、7人も座っておしゃべりしている。マーヤの発案で、あのショッピー館長とガーシュおばあちゃんが、近所の女性たちを招集してくれたのだ。
ガーシュおばあちゃんが立ち上がると、おしゃべりはピタリと止んだ。とても97歳とは思えない立ち居振る舞い。みんなから尊敬されている様子が、それだけで感じられる。
「この地球から来た若い男性は、ダーストン国の人々の生活にとても興味を持っていらっしゃいます。きょうはみなさんの生活意識について、なんでも正直に話してあげてください」
そこからはショッピー館長が司会役に回る。ぼくの方を向いて「どうぞ質問を」と言うので、ちょっと緊張してしまった。立ち上がってお礼を言い、なぜダーストン星に来たのかの経緯を簡単に説明した。
――なんでもタダで手に入れることが出来、働かなくても済むようになって、みなさんは「他人よりもいい生活をしたい」という気持ち、言い換えると虚栄心といった感情はお持ちなのでしょうか。
水色のローブを着た40歳ぐらいの女性が手を挙げた。ショッピー館長が「この方はお子さんが2人、ボランティアで図書館の管理をしています」と説明してくれた。名前はややこしいので、仮にAさんとしておこう。
Aさん「虚栄心がないと言ったらウソになるでしょう。たとえば顔をもう少し細面てにしたいとか、ショッピー館長のような光るローブが欲しいとか、もう少し大きい家に住みたいとか。でも整形手術を受ければ、顔は替えられる。銀色のローブも発注すれば、すぐに届く。家だって手に入る。だから欲を出せばキリがないから、実行しないだけ。そういう意味では、強い虚栄心はありませんね。みなさん、どうですか」
残りの女性たちが、一斉にうなずいた。ぼくも判ったような気がしたが、どうもすっきりしない。そこで次の質問。
――では劣等感もないのでしょうか。
ピンクのBさんが答えてくれた。50歳ぐらい。子どもはなく、特に仕事はしていないという。
「他人のことを羨ましいと感じることはありますよ。ただ、その人と同じレベルにまで生活水準を上げようと思えば、すぐにできます。ですから劣等感というほどのものはありません。とにかく、この国ではおカネ持ちと貧乏人の区別はつきませんから」
――すると貧富の差は全くない?
「貧富の差どころか、貧乏とか富裕とかいう考え方が成り立たないのです」
(続きは来週日曜日)