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どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

どうぶつ・ティータイム(163) 『原発汚染水漏えいとエンドレス神話』

2013-06-30 02:46:22 | コラム

        『原発汚染水漏えいとエンドレス神話』  

  

 

 東京電力は、福島第1原発で増え続ける汚染水を保管するため、敷地南側に残る森林を伐採し、タンク設置場所の造成を始めた。地下貯水槽から汚染水が漏えいし、タンク増設計画を前倒しするためだが、対策は行き詰まりつつある。……(2013/4/15)

 東京電力福島第1原発では、原子炉建屋などに流れ込む地下水の影響で放射性物質に汚染された水が増え続けている。東電は汚染水をためる地上タンクの増設でしのぐが、タンクには劣化による漏水の恐れがあり、東電が対応を急いでいる。 ……(2013/5/27)

 東京電力福島第一原発の港湾内で海水中の放射性物質トリチウムの濃度上昇が確認された問題で、原子力規制委員会は26日、「汚染水が漏れて海水に及んでいる可能性が強く疑われる」と指摘した。すでに指示した防止策を速やかにとるよう求める。・・・・(2013・6・26)

     (以上、朝日新聞電子版等からの引用)

 

 世の中、都議選や参議院選挙の話題に目を奪われているが、福島第一原発の汚染水は留まることなく増え続け、その一部が外部に漏れ出しているようだ。

 上記に引用した新聞記事を見るだけでも、容易ならざる事態が進行していることは推測できる。

 しろうと目に見ても、穴のあいたバケツの水を手でふさぐような危うさを感じる。

 今年4月の記事では、「増え続ける汚染水を保管するため貯水タンクを増設しているが、対策は行き詰まりつつある」と報道。

 5月の記事では、「タンクには劣化による漏水の恐れがある」と、更なる危惧が指摘されている。

 さて、6月になると事態は一気に深刻化する。「原子力規制委員会は、汚染水が漏れて海水に及んでいる可能性が強く疑われる」と、次の防止策を要求する。

 すでにご承知の通り、提案されている防止策は「汚染された地下水が海側へ漏れるのを防ぐため、地中へ氷の壁を打ち込む」ことだという。

 要するにマイナス何百度の液体窒素を注入しつづけることで何とか氷の壁を作り、放射性物質による汚染水の海への流出を阻止しようというのである。

 一方、メルトダウンした核燃料の行方は依然わかっていない。

 わからないまま、地中で地下水を汚染しているのである。

 このような状況を冷静に判断してみると、なんとも心許ない気持ちになる。

 汚染水の貯蔵タンクは次々と増設しなければならないが、いずれ設置する場所が無くなり別の方法を考え出さなければならない。

 また、貯蔵タンクは、劣化等により汚染水が漏れ出す危険が指摘されている。

 さらには、海中の放射性物質(トリチウム)濃度の上昇をどうみるか。

 原子力規制委員会は、氷の壁によって海への漏えいを防ごうとしているが、たとえそれが成功したとしても地下水そのものを制御できるわけではない。

 予測される事態は、どのような方法で貯蔵しようが運び出そうが、汚染水は限りなく増え続けるということである。

 

 

 この現状は、私たちに果てしない徒労感をもたらす。

 かつて原子力発電は、核反応によるエンドレスに近い高効率のエネルギーと云われていたが、いまや放射性物質によるエンドレスの汚染に変質してしまった。

 いったんひっくり返ってしまった価値観は、そう簡単にもとに戻せないのである。

 『覆水盆に返らず』・・・・ことわざに秘められた暗示は更なる真実を指し示す。

 ひっくり返した水の危険性は、ことわざの真意を超えている。

 まさに放射性物質を含む超危険な水をぶちまけて、それを回収できない事態に直面しているのが日本の英知(?)と言えないか。

 ことは汚染水に限らない。

 福島を中心に風下の地域を襲った放射性物質が、地上の農地や宅地そして広大な森林に降り注いだ。

 2年3カ月前に起こった出来事で、誰もが恐れ慌てふためいた最悪の事故だった。

 一応、住宅の屋根や宅地に除染を施し、なるべく早い時期に戻れるように作業を進めているようだが、汚染された地域の大半は手つかずのままだ。

 実際のところ、完璧な除染などできっこないのである。

 そして、仮に広範囲に除染できたとしても、放射性汚染物質は無くなったわけではなく、なるべく人体から離れた場所に隔離しただけにすぎない。

 (ああ、誰もが知っていることを、なぜ書かなければならないのだ・・・・)

 そして、除染の末に集められた汚染物質は、中間貯蔵施設に保管されたまま、最終処分場が見つかるまで留め置かれることになる。

 はっきりしてきたのは、汚染水も汚染土もひたすら増え続けるということだ。

 思い出すのは、神様との約束を破って終わりのない懲罰を命じられた一人の男のお話だ。

 福島第一原発の放射性物質による汚染に対処する人間の営みは、カミュが描いた『シシューポスの神話』に登場する人物の行為にあまりにも似ていないだろうか。

 

 <神々がシシューポスに課した刑罰は、休みなく岩をころがして、ある山の頂まで運び上げるというものであったが、ひとたび山頂まで達すると、岩はそれ自体の重さでいつも転がり落ちてしまうのであった。無益で希望のない労働ほど恐ろしい懲罰はないと神々が考えたのは、たしかにいくらかはもっともなことであった。
 ホメーロスの伝えるところを信じれば、シシューポスは人間たちのうちでもっとも聡明で、もっとも慎重な人間であった。・・・・> 

 

 一部のみを抜き出して示すことに異議があるかもしれないが、私たち日本人がいま目の当たりにしているのは、まさに果てしない作業ではないだろうか。

 無益で希望のない労働・・・・とまではいうまい。

 しかし、貯蔵タンクに満杯となった汚染水や、庭先に積み上げられた汚染土の行き先が決まらない中、もっとも聡明な人びとはどのように対処するのか。

 汚染水を腹いっぱい抱えたタンカーが、やがて大海原に漂うことになるのか。

 同じく汚染土を目いっぱい積みこんだコンテナ船が、行く当てもなく港に係留される事態になるのか。

 外国に引き取ってくれと云っても、どこもノーというだろう。

 行く当てのない幽霊船が、太平洋にプカプカと浮かぶ破目にならなければいいが。

 原発の廃棄物は、どのようなものであれ安全な処理が出来ない以上、エンドレスの懲罰と同義なのではないだろうか。

 

 

 私たちは、自分の無知を恥じなければならない。

 騙されたにせよ、迂闊だったにせよ、ことは起こり進行しているのだ。

 いったん起こりかけた「原発さよなら」の機運が、なぜか勢いを失っているように見える。

 これほどエンドレスな汚染に苦しみながら、目先の利益志向や物忘れ症状によってバイバイ意識が後退しているのではないか。

 無知を恥じよう。

 早くも原発再稼働をめざす勢力が、意図を明確にし始めている。

 原発の安全と低コストを信じる者は仕方がないが、それ以外の人はこの恐ろしい状況とバイバイしようよ。

 いつ再び襲ってくるかわからない巨大地震に耐えられるかなどと議論するより、どんな事態になっても心配のないエネルギー確保に転換しよう。

 エリートの英知よさようなら。一般の人々の叡知よこんにちは。

 デモや圧力などなくたって、たくさんの人の意識が同調同期すれば、希望は穏やかに成就するはずである。

 

 

     (おわり)

 

 

 

 

 

 

 

 


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1 コメント

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ツイートしていただきありがとう (窪庭忠男)
2013-07-31 21:39:05
福島第一原発の放射性物質による汚染水漏えい問題は、汚染がいよいよ海へと拡大し大変なことになってしまいました。
東電の発表が、参議院選終了後まで延ばされていたことは、さもありなんとしか言いようがありませんが、現実は相当深刻に受け止めざるをえません。
ここまで至ったら、国が法規を超えて特別チームを編成し対処すべきだと思います。
企業論理から離れられない東電にまかせておいたら、とんでもないことになってしまいそうです。
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