NHKの正月番組の収録で、お笑いコンビの「爆笑問題」の政治ネタがすべてNGにされたという。
太田光は「要は全部、自粛なんですよ。これは誤解してもらいたくないんですけど、政治的圧力は一切かかってない。テレビ局側の自粛っていうのはありますけど。問題を避けるための」と説明したそうである。
圧力がなくて自粛するわけがありません。そのネタに関して直接政治家から「やめろ」と言われたわけではない、と太田光はかばっている(?)ようですが、それなら尚更NHKは不健全な空気になっているということです。
政権に対して(つまるところどの党や政治家に対しても)批判的姿勢を保ちつつ、できるだけ中立の立場であるべき公共放送の会長が、「現政権に同調する」と言ってはばからないほど、あのモミイさんは非常識です。その会長さんは、今回の政治家を風刺するお笑いネタの圧殺を知らなかったといいます。
それならばNHKの職員たちは、「現政権にたてつく内容はまずい」と思わされるような「圧力」を普段から受けていると想像されます。「やばくないか、コレ」という空気が浸透しつつあるのではないでしょうか。
案の定、会長さんはあとで「規制する&規制しないや、圧力とかでなく、しゃべる人の品性や常識があってしかるべき」と言ったそうで、政治への風刺に対して否定的でした。私が思うには、「品性や常識」に欠けるのは、当の会長さんそのものでしょう。
直接「これはOK、それはNG」とやるのは独裁的な姿勢が露わになるので、「自分は関知してない」と言いながら専制的・検閲的な空気が蔓延しているのは、当のNHKだけではなく、あらゆる文化に悪影響があるのです。お笑い演芸のみならず、反戦的なセリフが出てくる連ドラや大河ドラマの脚本、紅白で歌ったサザンの歌詞、こういったすべてのものを作り出す人々が創作して発表をする際に、曇りのないのびのびとした気持ちでいられるだろうか?
おりしもフランスの週刊誌の出版社で、風刺画を発端に殺人が起りました。許しがたい犯罪です。風刺画はそもそも「品のない」デフォルメです(たまに大笑い)。北朝鮮の将軍様をからかうような米国の映画も「品のない」パロディーです(見たくもないが)。ローマ・カトリックの聖職者たちの腐敗をバカにした『痴愚神礼賛』はものすごく下品です(500年前だよ)。
思いきって言いましょう。健全な文化の形成には、これらすべての「下品さ」はなくてはならないものです。一部の権力による「品性や常識」という理由での圧殺には断固反対です。「これは口にすると危ないかな」という「自粛」が生まれる空気は健全ではない。
最後に、こういう「自粛」という圧殺があったことが伝わるという社会、「それには断固反対だ」と言える自由がある社会にとりあえず万歳。