雪なのに・・・。

　予報は雪である、それも二十年ぶりの大雪らしい。

　二十年ほど前の大雪の日、父は診察日だからと玄関で靴を履いた。
「おじいさん、今日はいくら何でも危ないから」と、わたしが静止するのも聞かず外へ出た。すると丁度女子中学生が通りがかり家の前でスッテンと滑って転んだ。若いからそれを仲間と一緒になってキャッキャッと言って笑い転げ喜んでいる。
（年寄りが転べばああはいかないの、おじいさん、分かっている？）

　何度も止めたのに、言うことを聞くような人ではない。
「大丈夫だ！」の一点張り。

　わたしが腕を支えたら「ええい、うっとおしい」とばかり引き離し、杖を付いてまっしぐら。クリニックまでは300メートルほどの距離だけれどやむなく後ろを付いて歩いた。
　父は道路の真ん中を歩き「ほら雪なんかないだろう」と振り返る。

　真ん中・・・そりゃ、車の通った跡だから。
　バス通りに出ても、真ん中を歩き「だから大丈夫だといっただろう」なんて言っている。

　この大雪の日に、バス通りの中央を歩く杖を付いた老人と中年のおばさん。さぞかし滑稽極まりなく、迷惑この上ない景色だったに違いない。

　車は父を避けながらゆっくりと片側づつ通り抜けて行くし、第一クリニックの窓からは患者さんや看護師さんたちがこちらを見ている。

　看護師さんからは「こんな日はお休みしていいんですよ」なんて言われながらも、父はご満悦（いやになっちゃうよ）

　そして、
「帰りはタクシーを呼んでくれ」とひと言（唖然！）

　雪が降っても、何が何でも・・・わたしはこの気性を継いでいるかもしれない。気をつけなくてはならない。

『ポラーノの広場』２３３。

わたくしはまるで胸が迫ってしまひました。ファゼーロが居ない、ファゼーロが居ない、あの青い半分の月のあかりのなか、争って勝ったあとのあの何とも云はれないさびしい気持を抱きながら、ファゼーロがつめくさのあをじろいあかりの上に影を長く長く引いて、しょんぼりと帰って行った、そこには麻の夏外套のえりを立てたデステゥパーゴが三四人の手下を連れて待ち伏せしてゐる、ファゼーロがそれを見て立ちどまると向ふは笑ひながらしずかにそばへ迫って来る、いきなり一人がファゼーロを撲るつける、みんなたかって来て、むだに手をふりまはす負ファゼーロをふんだりけったりする、ファゼーロは動かなくなる、デステゥパーゴがそれをめちゃくちゃにふみつける、えゝもう仕方ない持ってけ持ってけとデステゥパーゴが云ふ、みんなはそれを乾溜工場のかまの中に入れる。


☆胸（心の中）の魂の拠（よりどころ）を挙（ならびたてる）章（文章）の半（二つに分けた一方のブン（文章）に付き、双（二つ）の章（文章）は、化（形、性質を変えて別のものになる）を運/めぐらせている。
　記（書きとどめる）字で照（普く光があたる＝平等）を営/こしらえている。
　懲（過ちを繰り返さないようにこらしめる）を整（しらべる）。因（物事が生じる原因）の基（根本）を考え、真（真実）を解（さとる）。
　衆（人々）は化（形、性質を変えて別のものになる）で聯（つらなる）。
　諦（真理）の福（幸い）を現わす律（きまり）の考えは、照（普く光があたる＝平等を吐く（言う）。
　雷（神なり）の溢れる睦（仲むつなじい）鬼（死者）の衆（人々）。
　道（物事のみちすじ）の詞（ことば）の法（方法）は示した字で運/めぐらせている。
　換（入れ替わる）流（一箇所に留まらない）の考えは常に自由で新しい。

『城』１５２９。

いったいですね、くらむがこの調書を読んで、あなたの生活のくだらない一部始終まで逐一知ってくれることが必要でしょうかね。あるいは、必要ではないまでも、のぞましいことだとでもおもっていらっしゃるのですか。それよりはむしろ、こんな調書はクラムに見せないでほしいと、お願いなさったらどうですか。ついでながら、この願いにしたって、あなたがまえにおっしゃった願いとおなじく、ばかばかしいことに変りはありませんがーだってね、クラムにたいして隠しごとをすることなんか、誰にもできっこありませんものーそれでも、このほうが、まだしも同情の余地がありますわ。


☆クラム（氏族）が、この記録を読んで、あなたの取るに足らないあなたの伝記の文字通りの発言を知ることが望ましく、また必要でしょうか。
　それよりはむしろこの記録は、先祖の願いを隠し、クラム（氏族）に見せないでおいてほしいのではないでしょうか。
　クラム（氏族）に秘密にするなんてことは全く無分別です。
　それでも先祖の共感をうる文字（ところ）はあります。