日本画は、絵の具を膠と混ぜたものを、和紙に描く様式の絵画である。膠が接着材の働きをする。膠が世の中から消えてしまうと、日本画そのものの世界がなくなることになる。
膠を広辞苑で調べると、獣類の骨・皮・腱・腸などを水で煮た液を乾かし固めた物質とある。そのためであろう、膠職人が少なくなった結果、膠が手に入り難くなり、当然のように値上がりしている。大げさに言えば、日本の伝統、日本画の世界にも危機が迫っている。
「膠着状態」という、何気なく使っている言葉がある。広辞苑で調べてみた。膠でつけたようにねばりつくこと。ある状態が固定して、動かないこととあった。
粘るという言葉がある。広辞苑で調べた。①柔らかで、ものによくくっつく。吉田兼好『徒然草』「膠にも作るものなればねばりたるものにこそ」、②長時間にわたって、根気強くことをするとあった。
日本画の世界で、膠が手に入り難くなって来たが、日本人が、あらゆる世界で、粘りがなくなってきたような気がしてならない。身近な例では、相撲の世界に見られる現象であるが、淡白な取り口が目立つ。職人の世界に限らない。サラリーマンの世界でも、学校を出て新たな職場についても、ひとつの職場や企業に踏みとどまり、根気よく、粘り強く、黙々と、自力をつけるために努力する若者が減ってきたとよく聞く。
先日、プロ野球解説を聞いていたところ、最近、怪我から復帰した、阪神タイガースの今岡選手に対して、彼の打撃に「粘りが出てきた」、という言葉を耳にした。打席で粘りが出てきた結果、ここ2~3試合、ホームランを打って、チームの勝利に貢献している。
前置きが長くなった。10月4日のNY株式市場は、週末に雇用統計の発表を控え、10月31日の米FRB会合で再利下げに対する感触を確かめようとする空気も強く、文字通り、膠着状態が一日続き、前日比6ドル高の13,974 ドルで取引を終了した。
NY原油先物市場(WTI)は、米国でのガソリンの供給不足を材料に、バレル1.50ドル上げ、81.44ドルで取引された。80ドルをはさんでまさに膠着状態が続いている。サブプライムローン問題が本復したかどうかいまひとつはっきりしないことも微妙に影響している。
日本画の世界では、金粉をしばしば使う。このところの金相場急騰で粉薬ひと袋ほどの0.4グラム入りで4,000円である。金はインフレの反面教師でもある。膠も品不足から値上がりしてきた。身近なところでインフレの臭いがぷんぷんしている。備えあれば憂いなしであるが、健康を失えば全て失う。健康でないと粘りも出ない。健康が一番である。(了)
相楽園
江嵜企画代表・Ken