澤田好史氏at神戸酒心館
江嵜企画代表・Ken
「クロマグロ完全養殖について」と題して、近畿大学、澤田好史先生の講演会が12月1日(土)午後4時から神戸酒心館で開かれ、楽しみにして出かけた。ほぼ満席の会場の様子をいつものようにスケッチした。澤田先生は「私の弟子の一人が本日会場に座っております。現在、人材養成にも力をいれております。近畿大学では200人以上が白浜の研究所で研究・養殖・販売に従事しています」と話した。
1時間40分ほどの講演の後、一部、専門的な質問もあった。質問からして、総合商社で養殖事業の関係者と思われた。恒例によりお猪口一杯の「福寿」の新酒がふるまわれた。空き腹だからよく効く。ほろ酔い気分ながら、帰路、いつものようにこの日の話を反芻した。
一番印象に残った話は、「養殖の歴史は短い。しかし、世界の漁獲量は、全体としては、年々急激に伸びている。現在、1億7,000万トン~8,000万トンと言われている。天然魚はここ30年横ばいで推移している。一方、養殖魚は増え続け、過半数を上回った。養殖が世界の漁獲生産量の60%を占めるというデータもある。日本は魚の消費量全体で養殖は15%にすぎない。」と話した。
日本に住んでいると養殖はマイナー。天然ものはうまいと思い込んでいるひとがほとんどだ。澤田先生は「ノルウエーではマスの養殖で日本の消費量の6倍も7倍も生産している。ベトナムで日本国内では考えられない桁外れのスケールで養殖がおこなわれており白身の養殖の魚が日本のスーパーでも人気でよく売れています。世界では野生の魚はどんどん減る傾向にあります。」と話した。
クロマグロと聞くと近畿大学の名前が浮かぶ。近畿大学は、クロマグロ完全養殖で2002年、世界で初めて成功した。「もともと魚の養殖は、世耕弘一学長が提案した。しかし、莫大なコストがかかった。失敗の連続だった。ほとんどの研究機関や大学はクロマグロ養殖から撤退した。」と話した。澤田先生は「クロマグロ完全養殖が難しい理由は、親魚の安定した繁殖、次に受精卵が産卵から孵化、仔魚、稚魚、幼魚に至るまでの飼育が大変難しい」と話した。
「なぜ、近畿大学は残ったのか。養殖クロマグロを継続して販売、多くの人に食べ続けてもらってきた。数年かけて少しづつ、これはいけると評判になり、稼ぎも増えた。つもりつもって、今ようやく莫大なコストを賄うことも出来るようになった。販売を続けていたからこそ、近畿大学は残ったのです。「近大マグロ」というブランド化に成功したことも大きい。」と話した。これからはブランド化の取り組みでクロマグロの完全養殖に通じた人材育成が最大の重要課題だ」と話した。
澤田先生のこの日の話でひとつ面白かったのはベジタリアン・クロマグロの話だ。「養殖マグロには莫大な餌代がかかる。養殖魚を増やすために膨大な数の魚を獲らなければならない。そこで考えだされたのがトウモロコシや大豆をつぶして魚の餌の代わりに使う研究が最近急速に進んできている。「人と魚で餌の取り合いがこれから益々はじまります。」と話した。
講演冒頭に話を戻す。澤田先生は「クロマグロと言いますが水の中で泳いでいるときはきれいな青色です。上げられると背中が黒くなります。」と話を始め、会場正面に水中を泳ぐクロマグロの姿をプロジェクターで写した。澤田先生は「aquacultureとagriculture」の2つの文字を映した。「養殖は英語ではaquacultureと書きます。aquaは水です。Cultureは栽培です。Cultureはもともと耕す(cultivate)という言葉から生まれました。養殖は水を耕すという意味です。一方、agricultureは農業。agriは土です。土を耕すという意味です。」と話を進めた。
「天然種苗」と「人工種苗」の2つの苗床がある。海や水は養殖の「苗床」。完全養殖とは「人工苗床」を作り水の「苗床」に種(魚の受精卵)を撒く育て方だ。水を耕すからaquacultureと呼ぶのです」と澤田先生は話した。落語の世界に「枕」という言葉がある。噺家の「枕」ひとつで聞き手を虜にしてしまう。澤田先生のこの日の「aquaculture」の言葉に虜にされ、2時間近い壮大な話にどんどん引き込まれていった。貴重な講演の機会をご用意いただいた神戸酒心館にひたすら感謝である。(了)