「私は、気狂いになりそうだ!――ともかく、運搬車へ乗って下さい。只今、N駅からの電信に依ると、疾の昔に着いて、と言うよりも、そこで恐るべき衝突事故を起してる筈の73号が、まだ不着だそうです!……事故は、途中の線路上で起ったのだ!」
で、私達は、早速二番線に置かれてあった無蓋の小さな運搬車へ乗込んだ。
やがて線路の上を、ひと塊の興奮が風を切って疾走し始めた。が、駅の西端の大きな曲線の終りに近く、第二の屍体が警官の一人に依って見張られている地点まで来ると、急に喬介は立上って車を止めさした。そして助役へ、
「73号は、此処の亙り線を経て、下り一番線から下り本線へ移行する筈だったんですか?」
「そうですとも。そして、勿論そうしたに違いないです」
――大阪圭吉「気狂い機関車」