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母はよく落穂拾ひに畑に出かけた。その時は私も一緒に、丁度旧約聖書にある「ボアズの富みたる畑」のルツのやうに母にくつついて行つたものだ。或る日、私達は有名な意地悪おやぢが差配してゐる畑に行つた。ふと気がつくと、その男が見るも恐ろしい大きな鞭を持つてやつて来た。母と他の人達は皆逃げてしまつた。私は素足に履いてみた木靴を失くしたものだから、切株が痛くて走る事が出来ず、一人だけとり残されてしまった。既に鞭は振り上げられた――私は彼の顔をじっと見上げて叫んだ、『打つならお打ちなさい、神様が見ていらつしやるよ。』すると、そのおつかないおやぢは、急に相好をすつかり崩して私を見下ろした。そして私の頬を突つつきながら名前を聞いて、その挙句にお金を呉れた。私がこのお金を母に見せると、母は他の人々に向つてかう云つた。『このハンス クリスティアンといふ子は、まあ、何といふ奇妙な子でせう。誰でもこの子を見ると不思議に憎めなくなるのですよ。あの意地悪がお金を吳れたんですとさ。』
「アンデルセン自伝」――恥ずかしながらはじめてよんだきがするが、なにこれすごく面白いぞ。。
髙塚謙太郎氏の『Sound & color』も読んだぞ。韻律については昔も今も「実践的」な問題だ。