地平線のわずかな一部 2014-04-03 23:07:55 | 文学 たとえば、昔の人は、見晴らしのいい丘の頂に建てられた小屋の中に雑居して、四方の窓から自由に外をながめていた。今では広大な建築が、たくさんの床と壁とで蜂の巣のように仕切られ、人々はめいめいの室のただ一つの窓から地平線のわずかな一部を見張っている。たださえ狭い眼界は度の強い望遠鏡でさらにせばめられる。これらの人のために、この大建築から離れた所に、小さな小亭が建てられている。ここへ来れば自分の住まっている建築が目ざわりにならずに、自由に四方が見渡される。 ――寺田寅彦「丸善と三越」 #ヨーロッパ « 猫の子でも隠しているかのよ... | トップ | 己の仲間のビル »