Fsの独り言・つぶやき

1951年生。2012年3月定年、仕事を退く。俳句、写真、美術館巡り、クラシック音楽等自由気儘に綴る。労組退職者会役員。

ボテロ展感想

2022年06月05日 20時48分56秒 | 芸術作品鑑賞・博物館・講座・音楽会等

   

 午後からボテロ展の図録を読み、眺めていた。メインの解説「フェルナンド・ボテロ 形を超えて」(チェチリア・ブラスキ、訳・寺田寅彦)は、残念ながら解説自体がよく理解できない文章なのか、訳が日本語になっていないのか、多分両方の原因と思われるが、理解できない文章であった。本来公開できるような文章ではない。東大大学院教授という肩書が恥ずかしい。読むのがばかばかしくなり、途中で読むのをやめた。
 「ボテロ-静物画の「謎」をめぐって」(三谷理華)と「ボテロの彫刻」(金井直)は参考になった。



 展覧会で私が圧倒されたのは、黄・青・赤の花の3点組(2006年)であった。縦2m、横1.6mの大きなキャンパス3枚から光が溢れ出していると感じた。ボテロというとその豊満な人物や物の形を思い浮かべ、その解説や由来について議論される。私はこの3点組の作品で、ボテロという画家が色彩による質感を追及した画家、という視点が欠かせないのではないか、と感じた。
 この3点組の作品の前に「オレンジ」(2008年)も橙色の背景と赤い布の上に4個のオレンジが描かれている。テーブルが茶色である。同系統の4色にもかかわらず、オレンジが浮き出るように見える。
 これらの4点の作品であらためて気がついたのが、花々の細かな描写もさることながら、塗られた色面の丁寧な仕上げである。同色であっても光の当たり具合や質感・釉薬の輝きの違いまでもが丁寧に描き分けられている。総じて他の作品もこの丁寧な描き方が特徴だと感じた。



 ボテロの作品からは社会批評的な要素は嗅ぎ取って評価するのは作者の本意ではないという。本人もそのように語っているようである。しかし人物像からは、作者の見た南米のコロンビアの社会の状況が反映している。そのように鑑賞してしまう。
 「THE WIDOW」(1997年)では、貧しい生活に追われるシングルマザーの仮定が明るい色彩にもかかわらず、子どもめいめいの勝手な動きと母親の涙、男のような猫の表情から読み取ることが可能である。



 もう一つ取り上げるのは宗教画のコーナーにあった「守護聖人」(2015年)。作品の解説では「かなり風変わりな自画像」としている。そのとおりと思われる。表題は守護聖人だが、寝ている人が画家本人の自画像と私も思う。ベッドの両端と椅子、床の紙、窓によって遠近法が匂わされているが、かなりいびつである。寝ている画家に比べて天使がそのボテロ的な豊満さ以上に大きく描かれて遠近法を逸脱している。
 私はこの異常な大きさと寝ている主題の自画像のいびつな関係に、スペインを宗主国としてカトリックが貧困な国に君臨し、社会の隅々まで影響力を駆使している社会の息苦しさを読み取ってしまう。私の考え過ぎ、穿ち過ぎと言えるかもしれないが、どうしてもそう読み取ってしまう。
 画家は12歳からイエズス会の高等学校に在籍するも17歳で描いた裸体デッサン、やピカソに関する論評によって大綱処分になる。他の高校に端絵で学費を絵ながら卒業している。そのような社会のカソリックの影響力の強い社会の息苦しさ、重苦しさがこの天使の重さ、大きさとなって画家に覆い被さっている暗喩となっていないだろうか。



 ボテロと言えば過去の名画のボテロ流の大胆な描きなおしで有名である。今回の展覧会でも「モナ・リザの横顔」(2020年)など最新作も含め13点が展示されている。いづれも興味深く見ることが出来た。
 なかでもここに取り上げた「ゴヤにならって」(2006年)は印象深かった。かつてのコロンビアの宗主国スペインの近代を代表するゴヤを取り上げていた。
 そのようなスペインとの歴史とは無関係にゴヤの作品に影響を受けて、ボテロ流に描いたと言えるが、私はどうしてもスペインとコロンビアの社会との関係が気になってしまう。鑑賞の態度としてそれが邪道といわれるかもしれないが‥。

 作品はこれだけではないが、いづれも丹念な仕上げと、原色の輝きが不思議な明るさを醸し出している。作品解説の中で「ボテロは意図的にこれらの人物に同じ表情のなさを追及しているが、それはかれがピエロ・デラ・フランチャスカの肖像画やエジプト芸術のうちに称賛する無表情さ」という指摘があった。ボテロ自身の言葉なのか、はっきりしないのだが、私はボテロの描く人物は実に表情豊かだと感じた。
 これについては、もう少し勉強する機会が欲しいと感じた。
 
 繰り返しになるが、コロンビアは政治の腐敗、麻薬、そして国内内戦などの混乱を経験してきている。ボテロがまったくその状況に目を瞑っていたとは思えないと作品から強く感じている。



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