昼間はほぼ読書にならず。夕食後から読書タイム。
「漢字の成り立ち 「説文解字」から最先端の研究まで」(落合敦思、筑摩選書)を読み終えた。本日読んだ箇所は、最後の第七章「最新の成果」と「結び」等。
現時点で筆者は字源研究の一般原則として
① 優先順位は、当面は字形-字義-字音の順が基本
② 各要素とも時代差を考慮し、より古い資料を重視
③ 字形については、単独の文字だけからの分析ではなく、複数の文字との比較、考古学情報を参照
④ 字義からの分析は、文章や文字の中で原義で使用されていることが前提
⑤ 字音については、上古音(西周期)すら確定していないので、現状では参考資料にしかならない。字音の共通点から「イメージ」を導くのはあまり有効ではない。
としている。
字源の研究として考えてみれば当然のことであるが、どうしても「説文解字」という1900年もの前の解説に縛られている中国・日本の学的水準からの脱却が白川静も指摘しているがどうしても必要だと思っている。そこを指摘しているように思える。
第1章ではいくつもの字について、先行研究の批判的解説で私にも理解できる内容であった。「西」の字源などについて不明なものは不明と記していることも好感が持てた。また屋根の象形によるとして「今」の字源解説や、さらに「後代に統合された文字」という「字形の同化」という考え方にも興味を惹かれた。
白川静が「階梯」の象形とした「こざとへん」にも甲骨文字の記し方が二種あることが示されたり、興味が尽きない。
しかし個別の字形の解説で終わってしまったのが残念と言えば残念。やはり、先行する諸研究のように「体系化」による新しい辞書の作成が望まれる。
著者も「綜合的な字源研究は、古いものでほぼ半世紀も前のものであり、新しいものでも約三十年前に途絶えてしまっている。それらの研究に誤りが多いことは当然なのである。‥記述が正確であるべき時点でも字源の解説に誤りが多いのが現状である。できるだけ早く、漢和辞典などの記述を見直さなければならない」としるしている。
まだ40代の著者の今後の成果にぜひとも注目・期待したいものである。同時にそれをもとに新しい視点で、白川静のような比較文学、文明比較にも言及がある奥行きのある世界を期待したい。