「光の貌」展、井上雅之氏ご自身から直接丁寧なご案内をいただいた。横浜市内の個展会場で説明をいただいてから、いろいろとお話をうかがう機会を得た。
井上氏は雁皮紙に渋柿、墨、アクリル絵具を用い、丹念に色を重ねて、大気や水面でさまざまな表情を見せる光線を独自の色彩感覚と造形意識で捉えようと格闘している。そして深みのある色を追及している。
私はこの光線の不思議な効果と、浮かび上がる色彩と楕円の緊張関係が気に入っている。さらに色彩そのものに深みをもたらす紫のグラデーション、楕円と黄色の関係も気に入っている。
案内のリーフレットをスキャナーで取り込んだが、この深い色合いは残念ながら復元できていない。実際に目にしてこの独特の深い色合いを味わってもらいたいと思う。
Rectangle(方形)シリーズは「物体とそのまわりの空気との力の関係、光線が物体を捕らえる緊張を表現した」
See through(透過考)シリーズは「天空から降り注ぐ光は、照射や透過によって人間や自然を見抜くかのように浮き彫りにする。私たちのまわりで浮遊する光との緊張の表現に発展したもの」
See through(MIZUKAGZMI)は「海や川の水、月や太陽の光、何億光年から漸くたどり着いた胞子や光、私たち人類の故郷を思い起こさせる。天空(宇宙)から降り注がれる光と身近な水面という大きな鏡の舞台で感じるものの表現」
という作者自身のことばがなかなかいい。
実は私は水面にあたる光の印象ではなく、遠くの銀河系宇宙や巨大な天体と、そこから発せられる光や重力波の広大なエネルギーが、私達にとどくまでに尖った先鋭なエネルギーが変化しつつ私たちの目にそっと届くまでに変容していくようすを連想した。光のエネルギーもまた遠大な距離を進むうちに生命体に受け入れられるように、その尖った角を丸めて、そして深みを増していく。そんな長い時間の経過を思わせる黄色の線が私には印象的であった。
また、重力場を光が突き抜けていくような気分も味わった。そんな頓珍漢ともいえる感想を御本人の前で披露したことがある。きっと作者も面喰ったと思うが、にこやかに聞いてくれた。
今回はどのような印象を私は持つのだろうか。私のその時々の意思のありように従って様々な表情を見せてくれる作品は嬉しい。特に苦心されているであろう色彩がどんなイメージを私に与えてくれるか、楽しみにしている。
2017年10月14日(土)~10月22日(日)
なるせ美術座:東京都町田市南成瀬4-7-4(横浜線成瀬駅徒歩7分)
【http://www.narusebijutsuza.com/】