昨日から本日にかけて読み終わった本は、「図書」9月号(岩波書店)。いつものように覚書として。16編中10編に目を通した。
・[表紙]のっぺらぼうの奇妙な動物の夢 司 修
「パルテノンはのっぺらぼうの奇妙な動物の背中に建っていたのです。‥夢は、小川国夫さんが亡くなられてからみたものです。「そんなつまらないものを描くなよ」と「戦争はよくない」という声は、私の絵を描く態度やテーマについての、忠告であったろうと思います。」
・〝ひと・もの・こと〟から描く古代像 吉村武彦
「年号が継続的に用いられるのは、大宝元年(701)からで、対馬から金が献上され、金に因んで「大宝」と改元された。後にこれは「詐欺」で、官人が騙されたことが判明するが、大宝は取り消されなかった。陸奥国から本当に金が産出された749年は、「天平感宝」と改元された。奈良人にとって、産金はたいへんめでたい出来事であったのだ。」
・戦争文学としての荷風文学 三谷太一郎
「(戦争下にかかれた荷風の作品を、戦争文学としてみるならば)「(トーマス・ホッブスは『リバイアサン』において)戦争の本性も実際の闘争にあるのではなく、それへの志向がある時期の全期間にわたって認知されるということにあり、その反対に向かうという保証その時期には全くない」という戦争概念に適合した文学なのであり‥」
「戦争とは、一切の問題解決を大規模な軍事力による決済に委ねようとする不可逆的な時代の変化である。戦争は日常の市民生活の中に軍事的危機を孕んだ非日常が潜んでいる状態である。逆に非日常状態が日常化した状態であり、その方向は確実に不可逆的であるが、その中に生きているものは、しばしばその変化に気付かない。」
・父の書斎 高橋真名子
・臨床医・徳永進の言葉と実践 藤原辰史
「「死なして」と患者さんに言われた時、どうするか、答えはない。言った人の年齢、病気、病状、言われた人の年齢、立場、声の大きさ、声のトーン、などによって、同じ言葉でも違う世界を抱えている。‥聞き辛いその言葉の前で、頭を少し下げ、そのことばを否定せずただ聞き、聞きとめ、その後にその後の日々から逃げ出さないことを誓うこと‥」(徳永進、「こんなときとどうする?」)
「「聞きとめる」という言葉である。受け流すほど冷淡ではない。了解するほど重くはない。」
・大きな字で書くこと 私のこと その6 テレビ前夜 加藤典洋
・敗戦と吃音 片山杜秀
・風土記博物誌 川を遡上するワニ、サケ、アユ 三浦佑之
「常陸国風土記が「固陋相伝旧聞異事」以外の記事を省略してしまったためであろう。播磨国風土記の場合は、山野河海の生き物や植物については、関心を示していないようにみえるそれに対して、出雲国風土記は、山野の動物も植物も、海の生き物も、悉皆調査のような手さばきで拾いあげており、現代のわれわれに貴重なデータを遺してくれることになった。根生いの役人である郡司荘の底力が示されたといえようか。」
・憧憬と侮蔑の間で 山室信一
「憧憬と侮辱の間で今も捩れ続ける日中関係。その捩れをほどくためにも、言説の背後に潜む事実を確認し続ける他ない。」
・こぼればなし
「岩波ブックレットが創刊されたのは1982年4月。‥82年7月に刊行された中沢啓示「はだしのゲンはピカドンを忘れない」は、現在まで読み継がれるベストセラー。‥第2位はリヒャルト・フォン・ヴァイツゼッカーの「荒野の40年」(1986年)、第3位は井筒和幸、井上ひさし、香山リカ、姜尚中ほか「憲法を変えて戦争へ行こう、という世の中にしないための18人の発言」(2005年)‥。」