メランコリア

メランコリアの国にようこそ。
ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

ジュニア版 世界の名作推理全集 9 『Yの悲劇』 エラリー・クイーン著

2022-08-07 13:31:55 | 
昭和57年 初版 昭和62年 再版
表紙デザイン/岩尾収蔵 表紙・口絵・挿絵/杉尾輝

「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します


【注意】
トリックもオチもネタバレがあります
極上のミステリーなので、ぜひ読んで犯人当てをしてみてください

「ジュニア版 世界の名作推理全集」は全16巻





冒頭にこの作者は読者が読んでるうちに犯人当てできるように書いていて
第2章の辺りで分かるはずだ、みたいなことが書かれていて
私も推理しながら読んでみた

ミステリー小説はだいたい一番犯人だと思われない人物が真犯人という法則がある
最初に狙われたルイザは、父とバーバラ以外の家族全員に憎まれていた

父はすでに自死している
その顔がふやけて判別できなかったことから
妻がショック死するほど驚いたのは
夫が生きていたからだと思った
代わりの死体が誰かは分からないが

けれどもルイザが触った顔が女性のように柔らかかったということから
父とよく実験室にいたバーバラを疑った

けれども実験室のとびとびの足跡や身軽にエントツを出入りしたり
棚の上に手を伸ばす時、椅子を使った形跡があることから
意外とジャッキーが共犯していたのではと推理した

映画『湯殿山麓呪い村』で姉が大好きな弟が
何も知らずに殺人の手伝いをしていたように
けれどもまだ動機が分からない

途中から「犯人は一人である」と言うレーンの推理を読んで
バーバラ一人での犯行かと思い直した

医師のカルテを見たとき
彼女とビリーだけが健康的に問題がないと書かれていたし

だからレーンが物陰に隠れて見た人物もバーバラで
ジャッキーがミルクを飲んで死んだのは
一度ルイザのミルクに入れた時に失敗したので
本当に毒薬が効くかどうか試したのではと思った

実際読んだら、大枠は合ってるけど真犯人はやはり意外で
動機も分かると、つくづくよく出来た推理小説だったなと大満足v

ジュニア版でなければ、もっと人間関係や状況が複雑で
理解しづらく、途中で飽きたかもしれないけど
ジュヴェナイルで読むほうが私には楽しめた


【内容抜粋メモ】

はじめに 山村正夫
エラリー・クイーンはアメリカを代表する有名な本格派の推理作家
バーナビー・ロスという別のペンネームで発表した作品が数々あり
中でも世界的な名作として知られるのが今作

サム警部に頼まれて、事件解決に乗り出したのは
古城のようなハムレット荘に住む老俳優のドルリー・レーン
耳が聞こえず、読唇術の達人で、事件の謎を解いていく






クイーンの特徴は、作者が必ず読者に犯人当ての挑戦を試みていること




【内容抜粋メモ】

■序幕
ヨーク・ハッターが水死体となって発見された
自筆の遺書からも自死であることは明白
青酸カリによる中毒死

「異常なハッター家」と呼ばれる家族
ヨーク・ハッター:科学者として期待されたがエミリィと結婚してからはすっかり尻に敷かれていた
妻エミリィ老夫人:“鬼ばばあ”と呼ばれて名高い ルイザを溺愛している
ルイザ:最初の夫トム・キャンピオンとの間の子 盲目・耳も聞こえず、喋れない
長男コンラッド:アルコール依存症、乱暴者のトラブルメーカー
長女バーバラ:美人の天才女流詩人
次女ジル:派手な遊びが大好きな不良娘

マーサ:コンラッドの妻 おとなしい
ジャッキー:コンラッドとマーサの長男 13歳 悪いいたずらばかりするわんぱく坊主
ビリー:次男 4歳

家政婦アーバックル夫人、夫は運転手のジョージ
老女中のバージニア
隣家の1本足のトリベット船長:ヨークの唯一の親友


アーバックル夫人は、毎日毎時ルイザのためにタマゴ酒を出す
それをジャッキーがいたずらで飲んで苦しみだした

近所のメリアム博士が診ると毒薬のストリキニーネが混入されていたと分かる
誰かがルイザを殺そうと企てたと騒ぎになる



■第一幕
サム警部は「ハムレット荘」と呼ばれる家に住む
ドルリー・レーンに事件を手伝ってくれるよう依頼する
子どもの背丈ほどの老人クエーシーが世話係







レーンは長年舞台俳優をしていた名優で
背が高く、日焼けして、引き締まった筋肉のため60歳には見えない

唯一、聴覚を完全に失って俳優業を引退
その後、読唇術を身に着けた

ヨークは自分の寝室に実験室を作って、入り浸っていた
自死後は夫人がカギをかけた
窓には鉄ごうしがはまっていて誰も入れないため
ストリキニーネの瓶を盗むのは不可能

大金持ちのための遺産問題が関係か?
1度失敗したら、再び事件が起きるだろうと注意するレーン


後日、エミリィ夫人が殺された
発見者はスミス看護婦
寝室で死んでいて、一緒に寝ていたルイザは失神していた

部屋に夫人が入浴後につけるタルカムパウダーの筒が落ちて粉が散らばり
男の靴跡がたくさんついている
細いつま先には殺人に使われた毒薬がついていた

額にマンドリンで殴られた跡があるが
死因はショック死 普段から心臓が弱かった
死ぬ間際になにかを見て激しい恐怖の表情を浮かべていた

マンドリンはヨークの形見で普段は1階の図書館の戸棚にある

レーンは、ルイザが毎日食べる果物のナシに注射器で毒薬が入れられていたと推理
夫人はナシが大嫌いだし、ルイザは新鮮なものしか食べない

ナシは3個あり、1個は腐りかけていたため、毒薬が入れられたと分かる
だが、1人ずつ事情聴取すると、ナシは最初、新鮮な2個だけだったと分かる







犯人は手袋をしていて指紋はなし

バーバラ:私と母以外は皆ルイザを憎んでいた







その後、現場の古靴がコンラッドのものと分かり、一気に疑われる

ルイザは点字板で当夜、犯人らしき者の顔に触れたと明かす
女性のように柔らかかった
そしてバニラの香りがした







キッチンのバニラエッセンスは封がしてある
お菓子類の香りでもない
レーンは毒薬のかおりではないかと疑う

腐ったナシから塩化第二水銀溶液が検出された



実験室を調べるとイスを動かした跡が見つかる
犯人は男で共犯者がいると推理するサム警部

薬品棚に指の跡があることに引っかかるレーン
薬品類のリストもあり、注射器12本のうち1本抜かれている


その後、実験室から火事が出て爆発が起き、ほぼ焼けてしまう
周りは刑事の見張りがあり、カギがかかっていて、また密室だが
レーンはどこから忍び込んだか推理がついていた








■第二幕
実験室とルイザらの寝室が暖炉とエントツでつながっていて
犯人は窓のひさしづたいに入れると指摘するレーン

火事の現場から熱を加えると爆発する二硫化炭素が見つかり
放火と分かると同時に、犯人は化学知識があることが判明

暖炉は風通しとして利用され、冬も火が入れられたことはない

再び毒薬事件が起きるかもしれないと予告するレーンだが
日が経ち、事件が明るみになるにつれてなにか悩みやつれていく


夫人の遺言が発表され、ルイザだけが飛びぬけて莫大な財産をもらう

レーンは狙われたのはエミリィ夫人で、ルイザは見せかけの囮だったと明かすが
今度はルイザが狙われるかもしれないと予告し
犯人は1人だと言う


レーンは毒物学専門のインガルス博士に会い
薬品リストからバニラに似た香りの毒薬がないか調べてもらう

それはペルーのバルサムという一般的な皮膚病のクスリと分かる

ヨーク氏のかかりつけ医メリアムから、ヨークにバルサムをすすめたことを聞く
ヨークは薬剤師の資格もあるため、自分で調合してつけていた

特別に家族全員のカルテを見せてもらい
エミリィ夫人の異常な血がハッター家に流れていることを確かめる
バーバラだけは健康 マーサは別の医師にかかっていて記録がない

マーサを実験室に呼び、別の薬品を入れた瓶を高い棚に乗せて
バルサムかどうか聞くと違うと否定

その後、レーンは棚の間隔を丁寧に測る


バーバラからヨークは推理小説を書こうとしていたことを聞き出す
家族は知らず、原稿があるとしたら実験室

レーンは自ら暖炉にもぐりこみ、1個だけ緩んだレンガを外すと
薄汚れた原稿が見つかり写し取る

白い液体の入った試験管もポケットに入れて持ち出す



■第三幕
レーンはヨークが自分を犯人に仕立てた推理小説を書いていたことをサム警部に話す
それがそのまま今回の事件となった

タイトルは「バニラ殺人事件」
最初にY(ヨーク)がタマゴ酒を飲めば、犯人の説から外れるし
ターゲットはエミリィ夫人だが、ルイザだと捜査の目をそらせることができる

コンラッドを疑わせる手口、バニラの香りで犯人がYと分かる
Yは自分の寝室に放火し、命が狙われていることをにおわす

フィゾスチグミンという白色の毒液を使い
ルイザが毎日飲むバターミルクに垂らし
「それは怪しい」とYが邪魔して、また捜査の目をそらす

エミリィ夫人を殺す動機は、Yの一生を台無しにした憎しみ


レーンが心臓の発作で失神し、ハッター家の2階の寝室に運ばれる
それは演技で、夜中に物影に身を隠して、犯人の動向を探る

アーバックル夫人がバターミルクを運ぶと
犯人は窓枠から寝室に入り、レーンがすりかえた液体をミルクに垂らし
身軽に外に出て窓から様子を見ている

ルイザになにも変化がないのを不審に思い
犯人は実験室で再び瓶を盗む

レーンはその犯人の顔を見て、推理が当たっていたことに複雑な思いを抱く







夕食の席でレーンはこの事件から身を引くと言う
レーン:私にはこの事件を解決する資格がない

その時、ジャッキーはミルクを飲んで激しく苦しみ、そのまま死んでしまう


■終幕
2か月後 事件は何も起こらず、捜査も打ち切られた

ジルは行方不明
マーサはコンラッドと離婚して引っ越し、コンラッドも家を出た
バーバラはイギリスに渡航
ルイザは昼寝の最中に心臓麻痺で死亡
ハッター家は誰もいなくなり売りに出された

サム警部とブルーノ検事は、レーンを訪ねて真相を聞く








レーン:
犯人は死んだ・・・ジャッキーだったのです

ルイザが顔を触れたのは、彼女より背が小さかったから
顔が柔らかかったのも子どもだから

指のシミのついた棚を測った時もジャッキーの身長しかあてはまらない
イスの跡は、それに乗ってギリギリ届く位置に瓶があったから

13歳でなぜそこまでできたのかは、ヨークの原稿を見たから
「鈍器」の意味が分からず、マンドリンを選んだ

エミリィ夫人は皆から憎まれていたし
母マーサが「早く死んでしまえばいいのに!」と言ったのを聞いていた
エミリィ夫人も普段からジャッキーを酷く折檻していた

しかし私はどうしても責める気にはなれなかった
あの少年は、ただ異常者の血を継いだにすぎない
逮捕されれば、少年院か精神病院行き
事件を考えたのはヨーク氏自身

ジャッキーは自分で毒薬の効き目を試して亡くなった
どうか真相は永久に秘密にしてくれませんか

サム警部とブルーノ検事はうなづいた




解説 山村正夫
バーナビー・ロスとして今作を発表した時
みんなバン・ダインやエラリー・クイーンと並ぶ新作家と信じた

2人は覆面で講演会場で互いの作品を批評し合った
覆面を取ると同一人物と分かり、全世界を驚かせた

推理小説には被害者=犯人などのトリックがあるが
エラリー・クイーンとは、フレデリック・ダネイとマンフレッド・リーという
同い年のいとこ同士の合作のペンネームだった


雑誌の長編小説の懸賞募集に応募して、合作したのがきっかけ
入選後、雑誌が潰れて、後に別の出版社から出された

『グリーン家殺人事件』のバン・ダインに遅れること3年後のことで
処女作「ローマ帽子の謎」

題名に国名をつける「国名シリーズ」が次々刊行された

処女作から正体を秘密にして、誰とも会わず
会う時は黒マスク姿

1934年『ドルリー・レーン最後の事件』で名探偵レーンは姿を消した

日本版でもおなじみの
「エラリー・クイーン・ミステリー・マガジン」を編集
世界的に短編の秀作を紹介した功績も大きい




コメント    この記事についてブログを書く
« 原子爆弾が投下された日 | トップ | nicot+ で無料 呑気症に効く... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。