アンチ・リアリズムの試み;
一応ミステリーに限ってみよう。なに、小説全般に広げてもいいのだが、行きがかり上ミステリー限定。
いまではハードボイルドと言われている動きが出てきたときに、リアリズムということが言われた。それまで全盛だったいわゆる本格推理小説の不自然な犯罪(主として殺人方法)についての議論である。
密室だとか、突拍子もない凶器だとかね。だからハードボイルドの殺人方法は簡単だ。殴り殺すか、絞め殺すか拳銃で撃ち殺すか。あるいはまれにアイスピックで刺し殺すか。これが文化の違いだね。日本だと断然刃物なんだがアメリカじゃ拳銃だ。そんなところだ。
しかし、不自然なところがなければ小説なんか成り立たない。異化といってもいい。この言葉が好きなら。異化というのは受動的な意味だけはなくて能動的な意味もある。
ハードボイルドで不自然なのは動機である。不自然と言うか弱いなと思うのは。それまでテンポが良くても最後の謎解きになると俄然もたつくのがハードボイルド。
だからハードボイルドの名手は最後はあっさりと行く。やたらにひねらない。どんでん、どんでんといかない。チャンドラーなんかがいい例だ。
後、ハードボイルド、タフガイもので不自然なのは主人公がやたらとタフなこと。金槌で滅多打ちにされても1時間後には、たたかれる前より元気になって大酒を喰らい、走り回り、女にちょっかいを出すこと。これをやりすぎるとしらけるが、大体興行的には成功するようだ。
ようするに、不自然さをどこに持ってくるかだ。冒頭に持ってくる本格ミステリー、結末に持ってくるハードボイルド。中盤に持ってくる冒険小説とハードボイルド。