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創作料理なんて言葉があります。ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」を書評しながら物語を作り変えてしまおうという、まことに不届きな話でございます。<o:p></o:p>
前回に続きイワンに焦点を当てます。ドスト得意のほのめかしは第二部第五編6,7あたりに大量にばらまかれています。イワンが弟のアリョーシャを居酒屋に引っ張り込んで、例の「大審問官」の一席をぶったあとで、イワンが弟と別れて家に帰ると入り口で下男のスメルジャコフにあい、コンニャク問答をするところがあります。<o:p></o:p>
そこで求められたわけでもないのに、イワンにスメルジャコフはあらゆる情報を伝えます。明日私は癲癇の発作を起こします、なんて予測できないはずのことを言うかと思えば、父親のフョードルにドアのカギを開けてもらうためのノックの仕方まで打ち明けます。そして、負傷した下男のグリーゴリーは薬草入りの強い酒を治療のため飲むので夜には前後不覚の長いこん睡状態になるでしょうなんて教えている。そして、グリゴ゛-リーの妻もお相伴でその薬草入りの強い酒を飲むから昏睡していますなんてことまで教えます。つまり当夜屋敷はフョードル以外無人と同じになると示唆しています。<o:p></o:p>
ドストエフスキーの記述の仕方は、犯行に一番大事なのは父親にドアを開けさせるためのノックの合図の仕方だと読者に思わせるわけですが、スメルジャコフによれば、この合図を知っているのは、父親とスメルジャコフ、そして脅迫されてドミートリーに教えた。さらに今話したイワンということになるわけです。つまりドストエフスキーの誘導に従えば犯人はスメルジャコフかドミートリーかイワンということになる。<o:p></o:p>
「カラマーゾフの兄弟」第四部は逮捕されたドミートリーの裁判を扱っているわけですが、ドミートリーは最後まで父親殺しを否認する。そして第四部第十二編は『誤審』というタイトルです。作者ドストはドミートリーは犯人ではないといっているわけです。第十二編14のタイトルは『お百姓たちが意地を通しました』です。ようするに陪審員に選ばれたお百姓たちはドミートリーを有罪としたのです。<o:p></o:p>
裁判の過程でイワンは俺が実行犯だといって盗んだ金まで法廷に持ち出すが、精神錯乱で片づけられてしまう。そしてスメルジャコフは自殺します。告白したのかな、どうかな、忘れた。ま、小説はそんな記述の流れです。<o:p></o:p>
それでドストが残したなぞなぞは一般に次のように解釈されることが多いようだ。すなわち、イワンが教唆して、スメルジャコフが殺人を実行した。あるいはスメルジャコフがイワンが殺人を教唆していると受け取ってフョードルを殺したと。<o:p></o:p>
わたしは、大胆にも、この説をとりたくない。小説を読めばわかりますが、スメルジャコフはいわゆる狂言回しです。実行犯に擬することはできません。するてえと、消去法で行くとイワンということになる。<o:p></o:p>
以下次号、だんだん面白くなりますよ。<o:p></o:p>
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