今日三四郎は日課にしている市中徘徊の途次完璧な鼻を見た。携帯電話、スマホというのかな、には歩数計が付いている。どれだけ正確か分からないが一応の目安として一日1万歩を目ざしている。そこで徘徊の途中で大書店を見かけると全店内を最低二回巡回することにしている。またデパートや電気製品の量販店を見かけると同様にじっくりと全店内を数回まわる。
なぜかと言えばそういう店内にはサイレントキラーがいないからである。歩道を歩けば自転車にぶつけられる。前方だけ注意していればいいという時代ではない。三四郎は不幸なことに後頭部に目がないので不便でしょうがない。後ろの自転車に前方を注意する全責任があるが、そんな配慮をする自転車乗りはいない。歩道を歩いているのに歩線を変更するのにいちいち後方確認をして方向指示器を出さなければ危なくて歩道をあるけない。
大型書店や商店の中には自転車が走っていないから安心して歩数がかせげる。歩道でも自転車の少ない裏路地というのは有るが自宅の近所でないとどこが安心して歩ける裏道かの知識がない。勢い大型店舗で歩数を稼ぐのである。
昔は大型書店に行くと、思いがけない拾い物にぶつかることがあったが、めぼしい本は読んでしまったので最近ではまず書店をめぐっても収穫はないのである。
しかし活字中毒の三四郎は読む本が途切れる間が持たない。最近は下らない本でも多少読める所がありそうなものは妥協して買ってみるのである。
ところで同じ盛り場、駅周辺に大型店舗がいくつもあるわけではない。そこで長い一日を消すためには、電車や地下鉄を利用して数カ所の盛り場をうろつくのである。昔の山手線は裏というか西側つまり五反田から池袋の区間は昼間の他の路線では大抵車内がガラガラな時間でも超満員で三四郎は敬遠していたのであるが、昨日は歩き疲れたのがたまたま渋谷であったので池袋まで埼京線に乗った。
ほとんど立っている乗客がいなかったのに驚いた。埼京線の延伸とか副都心線とかが出来たので混雑が緩和されたのかも知れない。三四郎も座席に座った。立っている乗客が視界を遮らないから向かい側の乗客の顔がよく見える。そこで完璧な鼻を見つけた。美と崇高の感情を呼び起こさせるような完璧な鼻であった。ミロのヴィーナスをはるかに超えていた。