穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

メッチャ具体的と少女は言いました

2019-01-11 08:15:48 | 妊娠五か月

 ヘーゲル論理学164節、はて、と英語力のない私は戸惑いました。

The notion is concrete out and out

という句にぶつかってどういう意味なのか、と思ったのです。訳者は前世紀初頭のW.

Wallace教授です。最近のリプリント版で読んでいるのですが、解説者であるボストン大学のFindlay教授によると、現在までの英訳書では最善なものだそうです。

 

 彼によると、Wallace氏は国境を越えてきた人(つまりスコットランド人)ですが、スコットランド人とドイツ人には非常な親近性(affinity)があって、そのために彼の訳はよくヘーゲルの真意(あるいは気分と言ったほうがいいのかもしれない)が訳されているというわけです。

 

 そこで、日本語訳としては分かりやすいという定評のある長谷川宏氏の訳を見ると「申し分なく具体的」と大人しい無難な訳であります。

 

 ようするに、14,5歳の少女なら「メッチャ 具体的」と言うところだな、と分かりました。

 

 Wallace氏がout and outとわざわざ訳しているところをみると、原文は文章語的な、申し分なく、充分に、徹底的に、徹頭徹尾とか、それに類する言葉ではなくて、ヘーゲルは強調的で口語的な土語(ドイツ語)を使っているのでしょう。