チョンマゲは不審そうな顔をした。「そんなことを言いましたっけ」
「おっしゃいましたよ。生物兵器としては完成度がいまいちだとか」
「そうでしたか」彼は感慨深げに首をかしげた。「どうも発作で直前記憶が吹っ飛んでしまったらしい。そうですね、あれが生物兵器だという説はありますからね」と言葉を切るとしばらく考えていた。
「そうですね」とチョンマゲは考え考えするようにゆっくりと話し始めた。
「生物兵器とするともう少し練り上げたほうがいいかもしれない。いってみればマイクロソフトが完成度が全然ないOSを販売するようなものでしょうね」
話が急激に飛び離れたので皆は驚いた。「マイクロソフトはひどい会社でね、普通ならリコールになるような製品を平気で押し売りする。そうして『アップデートしなさいよ』と一日に数回アップデートさせる。普通の商品ならリコールものですよ」
「まったくなあ、最低でも一日に一回はそういう強要メッセージが現れるな」
まるで利用者がアップデートをしないと、ハッキングなどの被害にあっても、お前の責任だというんだからひどいものだ。さすがにアメリカの会社だね、とJSが頷いた。
「マスコミなんかもだまされて、とくにIT評論家と称する人間はマイクロソフトのお先棒を担いで『頻繁にアップデートしないのは利用者が悪い』なんて頓珍漢なことを訓示する」
「まるであべこべだね」
タマゴあたまが聞いた。「それでどの辺が完成度が低いんですか」
チョンマゲは困ったような顔をした。私は生物兵器の購入者でもないし、利用者でもないから、どこがどうだとかは言えませんよ」
「そりゃそうだ」
「ところであの事変、武漢肺炎事変とでもいうべき騒ぎはどういう経緯だったのかな」
とJHが言った。「いや、つまり意図的にどこかが細菌戦争をしかけたものかな」
「それはないだろう」とタマゴ頭が反論した。
「するってえと、事故ということかな」
「事故説というか誤って漏出させたというのが有力な説のようですね」
「武漢のあの辺りに細菌兵器の研究所があるそうですな」
「そのようですね」
「そうするとそこの研究者が誤って漏出させたと?」
「まあ、真相は藪の中ですが、こういう説がありますね」と軍事評論家のチョンマゲが披露した。「ご案内のように新型コロナウイールスは遺伝子解析から野生のコウモリがもっているウイールスに近い。それでその研究所では蝙蝠を大量に捕獲して研究実験に使っていたらしいんですよ」と彼は言うとコップのお冷で喉に湿りをくれた。なにしろ彼のノドは繊細である。
皆は黙って彼の説明を待っていた。「実験に使ったコウモリの死骸はウイールスが外に漏れないように徹底的に殺菌して焼却処分にすることになっているが、そういう作業をするのは末端の日雇いのような人間でしょう。そういう連中が蝙蝠の死骸を海鮮市場にもっていって小遣い稼ぎに売っていたというんですよ」
「本当ですか」
「それは分からない」
「かの地の民度を考えるとありそうだな」と誰かが言った。「コウモリの肉は珍味なのかもしれない」
「高値が付くのかしら」と憂い顔の長南さんがつぶやいた。