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穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

図書館2

2023-12-11 07:19:10 | 小説みたいなもの

いったん紙面の乗った新聞記事が突然消えるなんてことがあるのでしょうか?と老人が突然問いかけた。

私はびっくりしてどういうことですか、と問い返した。

「いえね、数日前に読んだ記事を読み返そうとしたのですが、見つからないのです」

「記事が誤報だったのかしれませんね」

「それなら、お詫びの記事が出るんじゃないですか」

「そうでしょうね。どういう記事だったんですか」

「さる女性が万引きして捕まったというんですよ」

「そんなケースは毎日多数起こっているんじゃないですか」

「それがね、その女性が名前の知れた大手総合商社の部長の妻だったというんですよ。普通は万引きしないような女性の万引きというので記事になったのでしょう」

「どこの新聞ですか」

「読売新聞です」

「一紙だけですか」

「いや、どうか分からない。私が見たのは読売だけです。気になってさきほどほかの新聞を見たのですが、どこにも出ていない」

私は言った。「間違いだったのかな。当人か、関係者から間違いを指摘されたのかな」

私は老人の釈然としない表情を見て、「その女性はあなたの知っている人ですか?」と反問した。

「ええ、記事によると姓名がフルネームで出ているし、住所が江古田のマンションというのもあっているし、夫の職業も当たっている。それでその時読み飛ばした記事をもう一度見て確認しようとしたら記事が消えていた。念のためにほかの新聞を全部見たが、そんな記事は見当たらないのですよ」

「妙な話ですね」と私は言った。「実話週刊誌とかテレビのワイドニュースで取り上げそうなはなしではある」

老人ははたと膝を打つと「そうすると、週刊誌も調べてみるか」

「週刊誌でフォローするのはタイムラグがあるから、来週あたりどこかに出るかもしれませんね」