アルジェリアにフランスが勢力を伸ばし始めたのは19世紀前半らしい。しかし植民地としての地位を確立したのは1905年であるという。なにか法律でも出来たのであろう(電子辞書版百科事典による)。
ジャックの父は1913、4年(つまり第一次大戦直前)フランスから入植地の管理人として赴任したがすぐに戦争に招集され、あっという間に欧州戦線で戦死する。父親すなわち最初の人間である父を知ろうとジャックは巡礼の旅にでるのであるが(故郷に母や親族を尋ねるのであるが)誰の記憶にも残っていない。
だからジャック自身が最初の人間なのである(というのが題名の意味だろう)。フランスからのアルジェリアへの入植者はいってみれば日本で1931年から1945年までに実施された満蒙開拓団と同じである。現代ではイスラエルがパレスチナ人の居住地に入植を強行しているのと同じである。
入植者というのは本国で生計が立ち行かなくなった農民が主体である。中には本国で失業した肉体労働者そして一部の事務労働者(サラリーマン)もいたであろう。ジャックの父は管理人という立場で赴任したのだからフランスではどうにか文字の読める階級であったらしい。
当然現地のベルベル人、アラブ人との紛争がおこる。現地人による残虐行為がある。フランスの軍隊、官憲も報復する。入植地ではどこでもあることである。
父は現地アルジェリアで先住の欧州人家族から妻を調達したらしい。夫が戦死したから妻(母)一族はアルジェに出て来た。ジャックはそこで育つ。
ところで前回カミュの幼少年時代に電灯があったのかあまり記述に記憶に残る所が無かったと書いたが、「最初の人間」の第二部にいたり、石油ランプの記述が頻出する。つまり貧困地区の家庭では電灯は敷かれていなかったのである。
カミュは太陽の作家である。光線の作家である。意識の芽生えてくる少年期の恐怖は闇(すなわち夜)である。そこで夜の不安を語る様になって急に石油ランプへの言及が多くなった。
アルジェリアは8年間にわたる独立戦争により1962年フランスから独立した。カミュが自動車事故で死んだ二年後であった。