久しぶりに芥川賞受賞作を取り上げた。大分前に、西村賢多氏が授賞した時に、その経歴の特異性にひかれて書評をこのブログで試みた。ニュース性のみではなく、内容も興味が持てたのでかなりの回数アップした記憶が有る。
その後、惰性で二、三回受賞作を取り上げたが、つまらない物ばかりで書評のために読むのが苦痛になったので、やめてしまった。
さて、今回小野氏の『九年前の祈り』を取り上げたのは特別の理由があるわけではない。ちょうど端境期で種切れということもあり、枯れ木も山のにぎわい、というわけである。
時間の扱い方がモディアノそっくりだね。真似たかどうかはわからない。氏はフランスに8年間留学していたそうだから、手法を真似した可能性は高いと思う。過去と現在の叙述が切れ目無く継ぎ合わされているわけだ。読んでいてすぐに分かる訳だが。この辺がモディアノに比べて工夫がないというか、芸がないとも言える。
もちろん、肌合いとかテーマ、質感は全然ちがう。肌合いという点で言えば、モディアノはさっと水彩画で一はけ書きしたような印象だが、上野氏はべっとりとした感じである。
叙述力、比喩力はあるようだ。
最後の何行かは不要である。これがあるためにハッピーエンドになっているが、どうも唐突であるし安っぽくなる。もっともこの「おち」がないとタイトルの「九年前の祈り」と繋がらない訳だが。最後の十二行を削除して、タイトルも別のものを考えたら良かったのではないか、と思う
選者の一人である山田詠美氏の評ではこう表現されている。「この作者は、彼女を生まれ変わらせる。その静かな再生の気配に寄り添えるのか、否か。私は残念ながら後者だった。」さすが山田さん、うまいね。