チャンドラーのロンググッドバイであるが、34章に
Just don’t steal any rubber bands. というのがある。
昔読んだときにもよくわからなかったが、村上訳では「輪ゴムを盗まないでくれよ」とある。清水訳では「ゴム・バンドを盗まないでくれよ」と似たような訳である。マーロウに拳銃はどこにしまってあるか、と聞かれてウェイドが「自分で引き出しを探したらいいだろう、ただし云々」とある。
これなら直訳でわたしでも訳せる。輪ゴムを盗むな、というのではこの文脈ではつながらない。しゃれにもなっていない。アメリカの言語、風習、社会に通じた村上氏はほかの個所では思い切った意訳をしているところが多い。
試みに私の推測では(まったく根拠も知識もないが)、高額紙幣を束ねた日本でいう「帯封」のことではないか。かの地ではゴム・バンドでとめる習慣があったのか(小説の書かれた1950年代、あるいは現在でも)。
100ドル紙幣で100枚とするといくらウェイドの金回りが良くても多すぎそうだが、50ドル紙幣とか20ドル紙幣100枚なんていうのはありそうだ。この小説の前半で妻のアイリーンが夫はいつもそのくらいを現金で持っていると言っていなかったかな。
19章ではポケットにあった650ドルをヴェリンジャーに渡したともあるし。