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観客席で思ったこと ~200文字限定のスポーツコラム~
 



全日本柔道選手権大会
2009/4/29 日本武道館

現在、絶好調の穴井隆将(天理大教員)が、厳しい戦いを勝ちぬき初優勝を飾った。

1回戦で、アテネ五輪・銀メダルの泉浩(旭化成)と対戦。ポイントで先行される苦しい戦いのなか、残り30秒で同ポイントに追いつき、残り20秒で泉に与えられた警告で、逆転し、逃げきりを果たした。

2回戦は、後小路(福岡警察)を相手に鮮やかな大外刈で一本勝ち。3回戦は、片渕(JRA)を攻め続けて、判定で3対0の圧倒的な勝利。

圧巻は、4回戦(準々決勝)だった。対戦相手は、昨年準優勝、一昨年優勝で、北京五輪代表の鈴木桂治(国士舘大教員)。北京以来の試合だったが、鈴木は、3回戦では合わせ技一本をとるなど、調子をあげてきていた。

しかし、穴井は、その鈴木を開始27秒で、背負投でしとめた。まさに秒殺だった。穴井には、ぼくの前で観戦していた、鈴木桂治を携帯の待ち受け画面にしていた女性の悲鳴が聞こえただろうか。敗れた鈴木もあまりにあっさりとした敗北に、すっきりとした表情で控室に戻っていった。

準決勝でも、生田(総合警備保障)を、1分1秒で、内股すかしで一本勝ち。穴井の優勝は間違いないと思えたが……。

決勝の相手は、やはり初優勝をめざすベテランの棟田(警視庁)。棟田は、ここまでの試合でケガと疲労とで満身創痍の様子。決勝でも、たびたびうずくまったり、「待て」で再開するときに、立ち上がるのに時間がかかるなど、会場からブーイングを浴びるほど。しかし、その棟田が先にポイント奪うのだから、勝負はわからない。

先行された穴井はさらに攻め続け、途中、場外までもつれながら棟田を投げ飛ばしたときには、棟田が場外どころか、畳の舞台から落ち、場内看板に激突する場面もあった。

穴井の執念が実ったのは、残り1分を切ったところだった。ぼくの後ろには総合格闘技の秋山成勲がいて、「棟田! そのまま、そのまま!」と声をかけていた。しかし、そのままで終わることはなかった。穴井の攻勢に、棟田が指導を受け、同ポイントになった。最後は、攻め続けた穴井の印象が勝り、判定で3対0となった。

24歳の穴井は、すでに注目されていた逸材だったが、鈴木桂治や石井慧などの陰にかくれた存在でもあった。しかし、今回、五輪のメダリスト2人含む6人に対して、常に攻め続け、優勝を手にしたことは、まさに穴井の時代の到来ということだろうと思う。そして、それは、鈴木、棟田から穴井、立山(JRA)、上川(明治大学)へという日本柔道界の世代交代も予感させる。

この日の日本武道館には空席が目立った。混戦の面白さが予想されたものの、戦いの中心に、スター性、話題性のある選手がいなかった。新王者、穴井にも期待するが、さらにその穴井を脅かす若手が続々と登場することを期待したい。



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