渋川を起点とし大前を終点とするのが吾妻線である。
地勢的には赤城山を背後にして出発すると、今度は榛名山(1449m)
の麓を進み、続いて左に浅間山(2524m)、右に本白根山(2171m)
等の山塊を望みながら・・・、となるが、これは地図上の話で、多く
は谷沿いの狭い地に敷設された所やトンネルを行くので、雄大な山並
みを車窓からふんだんにというわけにはいかない。
それでも線路に沿った吾妻川は、吾妻峡となったその流れを時折間近
に見せてくれる。
この路線の始まりは、長野原町で採れる鉄鉱石を搬送する為、太平洋
戦争の末期である昭和20(1945)年に、沿線にある日本鋼管が専用線を
敷設した。
その後国鉄が編入し、路線の延伸を重ね現在の形になったもので、比較
的成立の新しい路線である。
一時は県境の山を越え、長野側の信越本線との接続計画があった。
終着・大前駅は、単式1面1線の広いホームが有るだけの簡素な駅だ。
ホームから更に先には100メートルほど、架線も線路も延びているが、
その先で迫り出した山に遮られ、線路は途切れている。
この長いホームは、一つ手前の万座・鹿沢口迄やってくる長編成電車の
一時退避線として使うためだ。
この駅には、一日に5本の電車が出入りするだけである。
その利用客は通学が中心で、日に数十名らしいが、それでもこの駅が
廃止にならないのは、待避線として使われるからだ。
そんな駅に駅舎は無く、ホームの中央辺りに、白いペンキの塗られた
堅牢な待合室とトイレがあるだけだ。
駅前の未舗装の広場には今は珍しくなった公衆電話ボックスが建ち、
脇に一台の自転車がポツンと置かれていて、寂しい駅前風景である。(続)
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