
qBiz 西日本新聞経済電子版2016年09月12日15時00分
全国から経営者続々
アベノミクスによる景気の好循環は、いまだ地方では実感に乏しい。そんな今、全国の経営者が大挙して訪れる不思議なパワースポットが佐賀市高木瀬町長瀬にあるという。「佐賀虎神社」で、そこは人事を尽くして天命を待つ商人たちの心のよりどころだった。
長崎自動車道佐賀大和インターチェンジから車で5分。静かな田園地帯の一角に佐賀虎神社はある。鳥居もなく、探すのに苦労するが、真新しい社務所に気分は明るくなった。
だが、その横に鎮座する「虎の神様」に息をのみ背筋が凍った。全長約1・4メートルのホワイトタイガー様とブルータイガー様。加えて九つの小さな虎の像。いずれも牙をむきだし、殺気立っているのだ。
ここは観光気分で軽々に近寄ってはいけない場所ではなかったか−。怒るような虎をぼうぜんと見詰めていると、佐賀虎神社を管理する平川ひろみさん(48)が優しい笑顔で出迎えてくれた。「商売は戦い。その神様に穏やかな顔は似合わないでしょ」
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祭神はひろみさんの実家の守護神という。「何百年も守ってくれているけれど『本領』を発揮したのは商売人の夫と結婚してから」とひろみさん。食材宅配サービス会社を営む夫の平川満さん(61)は「今の商売繁栄は奇跡」と振り返る。
満さんは1980年代、20代半ばで起業し、84年には佐賀市でスーパーも開店した。だが、大量生産・大量消費・大量廃棄のバブル経済期。「地産地消」を掲げた経営理念は一足早かったのか、スーパーは5年で閉店。経営に苦しんだ。
転機は95年、ひろみさんとの結婚だった。満さんはある日、何げなくひろみさんの実家の庭を見詰めていて「ピーンと来た」という。今にも朽ち果てそうな60センチほどの木箱に神様が祭られていたのだ。「大事にせんといかん」。すぐに社を修理し、毎日参拝した。
結果はすぐに出た。修理した96年に過去最高収益を記録。業績は右肩上がりを続け、わずか5年で従業員は十数人から100人を超えた。神社近くに本社ビルも建設した。
「商品、取引先、社員教育…。何も変えていないのに急成長」。満さんの元には「何をしたのか」と問い合わせが殺到した。
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満さんは「企業秘密」を隠さずに開陳。その後、知人から「神様は虎」との助言も受け、虎のご神体を作製し、誰でも24時間参拝できるようにした。
御利益は口コミで全国に広まり、今では参拝者が1日100人を超える日もある。ゆっくりと参拝できるよう、13年2月には自宅のそばにカフェを併設した社務所と社を新築。「力を分けて」と請われれば、ひろみさんが指導して分社し、わずか20年で虎を祭る神社が全国で50を超えた。
8月29日夕、虎神社では佐賀市内で工務店を経営する60代男性が手を合わせていた。聞くと、ほほ笑んだ。「ここに通うようになって3年。経営はちょっとづつ良くなっとります」
御利益の種類は「資金切り」「人材育成」「事業後継」「意識活性化」などさまざまだが、満さんは社務所に貼られた多くの経営者の名刺を見ながら言った。
「私も見えない力に助けられたが、神頼みだけでは商売は成功しない。できることは人間がする。まさに人事を尽くすで、この神社は覚悟を決めた商人にエールを送るような存在」
商売という「戦場」に日々、身を置く者の心意気に触れた気がした。
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佐賀虎神社は、佐賀市高木瀬町長瀬2179−3。電話=0952(30)2186。